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東建ホームメイトカップ 2016
2016年もやっぱり強い! 金庚泰 (キムキョンテ)が国内覇者第一号に
11番で、一度は近藤に並ばれても、鬼の強さではねのけたはずだった。
2打差をつけて迎えた18番。「これで勝てる」と思ったのが鬼の誤算。1.5メートルのパーパットを外してまさかの3パット。痛恨のボギーにポーカーフェイスが一瞬、激しくゆがんだ。思わず膝に手をついた。「早く決着をつけてしまいたかったのに」。最後の最後にほころびが出ていた。
「後半から、体力が落ちてきていた」。本当は、もうこれ以上、歩くのもつらいほど、鬼は疲労困憊だった。
10メートルものバーディパットを沈めて追いついてきた近藤。アイアンショットにもキレがあり、猛チャージの勢いを感じた。
「プレーオフも、近藤さんのペースだった」。
自身は気持ちの緩みと、体力の限界と。劣勢を覚悟した。
「緊張していなければ、これ以上、歩くことも難しかった」。鬼が珍しく垣間見せた弱気の虫。どうにか気持ちを震い立たせた。「我慢、我慢」と、懸命に自分をなだめてサドンデスに臨んだ。
この日、庚泰 (キョンテ)は本戦の72ホール目と合わせて結局、4度回った18番ホールで、実は一度もドライバーを握っていない。今年は、オフに海外で4試合をこなしたが、いずれもドライバーの不振に苦しみ、復調の目処もつかないままこの国内開幕戦を迎えていたのだ。
2010年に自身最初の賞金王に輝いたあとに味わった、ひどいスランプ。このまままた、同じ迷路にはまり込むのが怖かった。今週は会場で、たまたまドライバーの代わりになる3Wを見つけて、この日もティショットで多用しても、本戦の72ホール目も、プレーオフ1ホール目も、左のバンカー。2ホール目は、右のバンカーに打ち込んだ。
ついにピン位置が切り替えられた3ホール目のティショットは、さらなる安全策で、5Wを握った。ようやくフェアウェイを捉えた。ピン手前10メートルに乗せた。
今度こそ手堅く寄せた。2打目を右のラフに落とした近藤のボギーを誘った。薄氷の今季初Vに、思わず吹き出た冷や汗をぬぐった。鬼の粘り勝ちだった。
「キョンテは、本当に状態が悪かった」とはキャディの島中大輔さんだ。近藤も、「相当、調子が悪そうだった」と、鬼の不調に気がついていた。そしてだからこそ、徹底して刻み倒した鬼の強さを垣間見た。
「僕ならちょっとでも、前に行きたいとドライバーで打ってしまう。そこが僕とは違うとこ。ぶれない感じが強さだと思った」。
「すべてを受け入れ戦う強さ」と、証言したのは島中さんだ。
「プレー中も、ここはスプーンでいいんだとか、何度も自分に言い聞かせていた。揺らがないゲームプラン。セルフコントロール力。この選手は本当に、凄い」。
鬼はやっぱり今年も春から強かった。
そして、再び戻った日本で春からその胸を痛めている。14日夜から続く熊本地震。本格参戦から9年目を迎えた日本で、また起こった悲劇。「僕だけじゃないです。韓国選手も、他の外国人選手も。日本にいる時間が長いですから、苦しいです」と、苦渋を浮かべる。
この日の最終日最終組で回った熊本出身の重永亜斗夢にも、すぐに見舞いを言ったという庚泰 (キョンテ)。テレビやインターネットで被害状況を集めては、知人の安否も確認した。「九州にも知り合いの方がいて、みんな大丈夫と言うけれど、家の中はグジャグジャで、良いはずがない。頑張って欲しいです」。
2011年の3月11日には、いち早く東北に義援金を送った。このたびの大震災では、日本ゴルフツアー機構と選手会で決定した獲得賞金10%の寄付は、それぞれの選手の任意だが「もちろん、僕も寄付します」と、迷わず答えた。