最後は、痺れた。「電気が走ったみたい」。他のどのツアーを見渡しても、これが自身のプロ初Ｖ。最後は３メートルのウィニングパット。カップに沈んだ瞬間に、「今まで味わったことのない感覚が走った」と、鮮やかな連続バーディ締めが、喜びを倍にする。
仲間たちに頭から容赦なく浴びせられた祝福の水シャワー。逃げ惑いながら幸せを噛みしめる。「良い仲間に囲まれて勝てたこと、本当に嬉しく思います」と、初勝利の美酒にも酔いしれた。

２打差から出た最終日は自身初の最終組に、一時は５打差の独走態勢も緊張から逃れられない。「ショットが曲がり始めた」。ジワジワと詰め寄られた。フィリピンのパグンサンが、背後に迫った。
「自分が出来ることをやればいい」と、言い聞かせた。今日はひとつの山と位置づけていた。最難関の14番。232ヤードと距離のあるパー３は、７メートルのパーパットを拾った。
とうとう１打差で迎えた17番は、ラフからフライヤーの計算も完璧に、125メートルの２打目は52度のウェッジで、右の傾斜を使って３メートルにつけた。「これで勝てたと思った」。そして最後は２打差で迎えた１８番パー５は、ティショットでスプーンを握り、無茶をせずに確実に刻み、３打目は60度のウェッジでチャンスにつけて、さらに２位との差を広げて余力を残した逃げ切りＶは「一石二鳥の優勝ですね」。

父の手ほどきで11歳からクラブを握り、13歳から３年間を南アのヨハネスブルグで過ごした。18歳にプロ転向。それから４年間を戦った母国ツアーでも、そのあとアジアンツアーでも目標の優勝には届かず、新天地を求めた日本ツアーは初年度の２０１２年に、開幕早々に自宅の階段から転落して、スーツケースに下敷きになった右手を骨折。ビリヤードのように構えるパターの変則グリップは、小指にステンレスを埋め込む当時の手術の名残からである。

思わぬケガの影響で、初シードにも手間取ったが昨年のチャレンジトーナメントは賞金ランク７位の資格で参戦した今季、プロ８年目にしてようやく手にした初優勝には、初のメジャー切符もついてくる。
「全英オープンは、プロなら誰もが一度は出たいと思う」。子どものころからの夢を、この日いっぺんに叶えた。

母国では、旅客船事故のニュースが報道されない日はない。まだ１６人の行方が分かっておらず、国中が深い悲しみから抜け出せないでいる。不明者の無事を祈る黄色いリボンに思いをこめて、「少しでも明るいニュースを届けたい」と、接戦を勝ち抜いた。

「でも、これで終わりじゃない」と張（ジャン）。「初めてのリンクスコースでは、ぜひトップ10に入りたい。そうすれば、みんなもっともっと喜んでくれると思うから」。世界中のどのツアーでも、賞金王になるのが次の目標だ。「夢は大きく！」。７月に、初めて乗り込むメジャー舞台も物怖じせずに、さらなるビッグニュースを母国に届けるつもりだ。

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• 張 棟圭