記事
今季の最強ツアーはシニアのPGAチーム
今となってはすべてが、策略だったと分かる。開幕前からシニアがチーム一丸となってずっと言い続けていたのは「僕らは、女子を応援するよ!」。
うら若き女子にデレデレしているフリをして、虎視眈々と狙っていた。
それと、まるでやる気がないかのような発言の数々だ。
初出場の奥田靖己。「僕はピチピチをみながら、ヨレヨレで行きます」。
それもすべては他の2ツアーを、油断させる魂胆だったと判断するしかない。
また、一見するとほうほうの体。前半9ホールのダブルス戦で、7オーバーを叩いて最下位に沈んだ尾崎直道と井戸木鴻樹。他の仲間に大笑いをされた。「ハンディ18のアマチュアか?!」。
それを否定もせず「俺たち2人でチャックリと、トップを8回打った」と、直道が悄然と肩を落とせば初出場の井戸木は直立不動で「本当にスミマセン・・・!」。
また3年ぶりに、この最強ツアー決定戦に帰ってきた中嶋常幸は、前半のダブルス戦のスタートホールでPGAの青いティマークを持って、すたこらさっさと逃げ出す始末だ。
「ペナルティでしょう!」と、男子のJGTOが猛抗議もしゃあしゃあと、「僕らシニアはみな賞味期限切れ。もっとハンディが欲しいくらい!」。
今年7回目は最多出場の室田淳は、「みんなで智恵ちゃんを応援しようよ!」。来季の米ツアー参戦を表明している有村智恵選手を応援する様子に、けっして嘘はなかったと思う。
それに前半9ホールのダブルス戦は、高見和宏と共にほのぼのと「育メンコンビ」。
57歳には、まだ11歳の愛娘がいる。さらに高見に至っては、大会の2日後に53歳の誕生日を控えながら、1歳の娘がいる。
「僕ら娘にデレデレなんです」と目尻を下げる様は、けっして勝負にこだわる男の顔ではなかった。これに男子も女子も騙された。
しかし、よくよく思えば室田は今だ元気にレギュラーツアーを掛け持つ鉄人。つい先ほど終わったばかりの予選会「ファイナルQT」でも堂々の6位につけて、来季の出場権もがっちりと確保しており、それを思えば、あなどれるはずもなかった。
それと、今年の開催コースだ。
千葉県の平川カントリークラブは、今季シニアツアーの開幕戦の舞台であったことを、忘れてはならなかった。午前中は吹きすさぶ空っ風とツルツルに磨き上げられた高速グリーンも、経験と技を持ってすれば何の支障があるはずもなかった。
そういえば、シニアの誰もが勝負を投げたような発言をする中でも、キャプテン・ジョーは言っていた。「可愛い女子も、成熟の男子も、オヤジパワーで粉砕したい!!」。
思えば、直道は朝の開会式で、「僕らシニアはこの試合に出たいがために、今年1年頑張って来ました」と言った。
その言葉どおりに、最後に魅せた。
後半9ホールは、佐伯三貴と谷口徹のダブルス戦。谷口とタイスコアの1アンダーで迎えた最終18番は、なんと奥からまさかのチップインバーディで、男女束ねて粉砕した。
それと立て続けに、これまた永久シード選手がやった。最終マッチの中嶋が、右のバンカーからチップイン。
中嶋は、かねてよりメンバーたちにお願いしていた。「どうか、俺の前で決着をつけておいてくれ」。しかし、勝負はみごとに土壇場までもつれ込んで、さすがのトミーも決死の覚悟で挑んだ。「死んでなるものか!」と、最後の最後にもう一度、みごと奇跡を起こしてみせた。
「これぞゴルフの醍醐味。それを最後の最後に見せられた。その喜びでいっぱいです」とは、今年のMVPに輝いた直道。中嶋は「僕がいると、チームがまとまる!」。スタート前の開会セレモニーで、シニアが揃って演じたのはマイケル・ジャクソン。一斉のかけ声で、セクシーに決めた。これも中嶋の発案だった。「朝は、僕らの“フォー”から、今日の優勝は、決まったも同然だった」と、悦に浸ったシニアの面々。
「シニアのみなさんの言うことは、もう二度と信じません!」と、可愛いほっぺを膨らませたのは女子キャプテンの佐伯三貴さん。佐伯さんは、シニアの本性にうすうす気がついていた。たとえば前半のダブルス戦で当たった中嶋だ。
「中嶋さんは、私たちを応援してくれると言いながら、だんだん無口になっていきました」。
「僕らは勝とうと思っていない」と言いながらも内心は、勝つ気満々だったのだ。
そんな証言に、中嶋が今さら「心外だなあ」と反論しても、むなしく響く。
「僕らは心からLPGAを応援している。応援するから無欲になれる。無欲だから力が抜ける。心から、女子を応援するから、最後に自分に回ってくる」とは、苦し紛れの言い訳にしかならない。
「本当はチップインなんかで勝ってはいけない。だけど、あれで勝つのがシニアの素晴らしさ」としゃあしゃあと高笑いで、「来年も、僕らは女子を心から応援するよ!」と、男子も女子も、揃ってまんまと欺(あざむ)いたことも、全然ちっとも反省してない。
そればかりか、PGAの森静雄・新会長は「来年は、2連覇、3連覇を狙います」と、むしろますますお盛んだ。