この日ばかりは名門コースで、子どもたちが転げ回った。休場日の8月17日に、兵庫県の西宮カントリー俱楽部で行われた「西宮小学生スナッグゴルフ大会」は13回大会を迎えていまでこそ、整備の行き届いたコースが丸1日貸し切りでも初年度の2005年は、スナッグゴルフの認知度も低く、市民グラウンドの片隅で細々と行われていたものだ。
それが努力の甲斐あって、今や市民体育大会のひとつに組み込まれて夏休み中の参加希望者が殺到するほどの盛況ぶりである。
特に発起人であり、初代の大会会長もつとめた現・副会長の古川好男さんには、起ち上げ当時の苦労があるだけに、感慨深いものがある。
本番までに西宮市民中央運動公園で、6月から4度も開かれる合同練習会。
開催当日は練習場で、芝生の上から存分に打うこともできる。
名門コースで繰り広げられる熱戦は、コースのご厚意でふるまわれるお昼の美味しいカレーライスも含めて「他のどのスナッグゴルフ大会よりも、ここが一番楽しい」と言ってくれる子もいるそうで、古川さんをはじめ大会を運営する大勢のボランティアのみなさんの労も報われる。
昨年からは1,2年生対象の「親子スナッグ体験会」も同時開催されて、お子さん以上に親御さんたちが大ハッスル?! おかげでお父さん、お母さんと一緒にスナッグゴルフの楽しさに味をしめた子どもたちの、3年生からの“独り立ち”もよりスムーズにいくようになった。
この大会をきっかけに、来年から市内でいよいよ「親子ゴルフ教室」も始まる。
古川さんたちには、小学校を卒業してからゴルフへの転向を希望する子たちの受け皿が、今までなかったことが悩みの種だった。
しかしこの大会ですら、事前の準備はもちろん当日のスコアラーなど大会運営はすべて、ボランティアさんの手にゆだねるしかないほど、何をするにも予算がない。
「さまざまなところにお声をかけまわって、サポートしていただいてきましたが、新たにゴルフ教室を開くお金はない。しかしルールやマナーは私たちで教えられても、ゴルフ技術となるとそうはいかない」(古川さん)。
奔走の末に、子どもたちを教えてくれるプロの謝礼の捻出にはどうにかめどはついても、少ない予算でやりくりしている現状は変わらない。
この日、開会式で見事なデモショットを披露したのはやはりボランティアの赤木博さんだった。
大会実行委員の田中輝昭さんの司会進行も軽妙な関西弁と、素人さんとは思えないマイクさばき(?!)で、それはそれでおおいに盛り上がったが古川さんには、ひとつ大きな心残りがあった。
「やはり子どもたちには今年こそ、プロのホンモノのショットを見せたかった」。
というのも一昨年までは毎年、プロゴルファーを呼んで開会式ではネット越えの豪打を披露してもらって、子どもたちの夢と感心を誘ったものだが、ここ2年は予算の関係で、それも途絶えたままなのである。
来年度の14回大会に向けて、古川さんが懇願した。
「なんとかしたってもらえませんか」と、古川さんが名指しで呼びかけた相手は、今大会の後援にも名前を連ねる日本ゴルフツアー機構(JGTO)現会長の青木功だ。
古川さんは、元サッカーの五輪代表を経て、AONの全盛期にはトーナメント運命会社のダンロップスポーツエンタープライズの代表をつとめた経歴を持ち、青木とは旧知の仲だが「かれこれ30年以上も連絡をとっていない。僕のことは、忘れてしもたかもわかれへんけど、子どもたちにはどうか夢を与えたって。よろしくお願いします」と、兵庫県西宮からおん年83歳が深々と頭を下げた。