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〜全英への道〜 ミズノオープン 2016
金庚泰 (キムキョンテ)が今季3勝目
テレビ塔に阻まれた2打目は、臨時の仮設物による救済を受けてドロップしても、まだ気になった。「タワーに当たったら大変なことになると思った」。左サイドは池沿いのフェアウェイに向かって、相当勇気の要るショットになった。「右めからドローで」との計算も、すっぽ抜けてまた右のラフへ。パーオンに失敗した。手前のラフから4打目のアプローチも奥から3メートルのパーパットも、鬼には珍しくナーバスになっていた。
同じ最終組の李尚熹 (イサンヒ)が、やはり奥からのバーディパットを残していた。「プレーオフどころか、負けるかもしれない」。自身がボギーを打った際の悪夢がぐるぐる回る。「まだヘンドリーだっている」。さらに、すでに上がった谷原と、市原が通算10アンダーで、控えている。「5人のプレーオフというものありえる」。パーパットを打つ前に、そんなことを考え出したら「頭が痛くなってきた」という。
李(イ)が先にバーディパットを打ったことが、幸いした。「サンヒのラインを見せてもらった。カップ2つくらい右に構えて、あとは距離感だけ大事に打とうと思った」。李(イ)がチャンスを外したことが、良い手本になった。日本での初優勝を狙った後輩も、容赦なくねじ伏せた。ジャストタッチで合わせて、パーパットをねじ込んだ。白熱の大混戦を制して珍しく、ガッツポーズを振り下ろした。
「ノーバーディで勝ったのなんて、初めてですよ」と苦笑した。最終日にバーディをひとつも獲らずに優勝した選手は、2009年の「アジアパシフィック パナソニックオープン」の丸山大輔以来だ。ツアー通算13勝目の珍事も、最後の最後にやっぱり強さを見せつけた。
先週は、韓国ツアーの「SKテレコムオープン」で、李(イ)に1打差の勝ちを譲ったばかり。「2位や3位も悪くないけど、そういう負けた記憶がずっとあり、今日ももしまた負けたらという思いがあった」。負け癖は、つけたくなかった。主戦場で、さっそく李(イ)にリベンジを果たして先輩の貫禄をみせた。
次週の「日本ゴルフツアー選手権 森ビルカップ Shishido Hills」に出たあと、しばらく日本ツアーを留守にする。今週のミズノオープンは、日本予選を兼ねるが、すでに権利を持っていた庚泰 (キョンテ)は、自身2年ぶり6度目の全英オープンも含めて、残り3つの海外メジャーに出られる見込みだ。
8月には、目下代表候補の2番手につけるリオ五輪もある。
来季は米ツアーへの本格挑戦を視野に入れる鬼にとって、大事な時期を迎える。昨年は結婚して子どもも生まれ、家族のことを考えると、つい臆する気持ちもあるが「目標がなくなると、選手はダメになると思うので。僕も挑戦できるチャンスが、だんだん少なくなっていく」。強いて自ら尻を叩いて今年30歳を迎える鬼には、ゴルフ人生のピークをかけた大事な正念場となる。
アメリカには苦い記憶がある。2010年に日本で初の賞金王に輝いてから、再三の挑戦も、すっかりスイングを崩してそのあと深刻なスランプに陥った。飛距離を求めて、しゃかりきになったのが原因だ。
しかし、今改めて思うのはアメリカで必要なのは本当は飛距離ではなくて、どこからでも拾える巧みな小技だ。「向こうには、僕より飛ばない選手もたくさんいる。それでも活躍するためには、グリーン回りが大切になる」。あれからたゆまぬ研鑽で二の足は踏まない自信がある。「今度こそ、向こうで結果を残したい」。鬼の野望は続く。