記事
アジアパシフィック ダイヤモンドカップゴルフ 2015
金庚泰 (キムキョンテ)が今季4勝目
この日最大の敵は、「いまとても調子がいい」。同じ最終組で回った池田。「勇太さんが、11番でバーディを獲って3打差。他の選手とも、2つくらいはあいてるだろう、と」。
12番を終えて、そんな余裕も13番のティーグラウンドで、武藤に並ばれていることを知って、鬼ががぜん牙を剥く。
13番で、3メートルを沈めて突き放す。
武藤が14番でボギーを打った。再び2打差がついた。「自分がボギーをして負けるなんてダメなんで。パー取って、最後まで我慢して」。迎えた18番ホールは、ティショットが木に当たって出てきて、運さえ鬼に味方した。
憎らしいほどの強さも、「勝つにはやっぱりラッキーも必要なのかな?」と、そんなセリフにすら余裕が漂う。ツキを生かして最後に魅せた。フェアウェイに、丁寧に刻んで95ヤードの3打目は、「柔らかいグリーンで、スピンがかかりにくいように」とPWを握り、ピンそば1.5メートルにぴたりとつけた。今年4度目のウィニングパットも、余裕綽々だった。
先週まで2週間は、母国韓国に里帰り。所属契約を結ぶ新韓銀行の大会に出た。目下賞金1位の日本ツアーを留守にしても、その間も差はいっこうに縮まらず、むしろ鬼はパワーアップして舞い戻った。
「先週の韓国の大会は、自宅から本当なら車で1時間でも、渋滞するから2時間かかった」。本戦中こそ近くに宿を取ったが、「練習日とプロアマの日は、頑張って家に帰った」。奥さんのチョン・ソンイさんと、長男のチェハンくんが待つ我が家で、久しぶりの家族団らん。最終日には、コースに応援に来てくれた。独身時代は「試合中に、奥さんや子どもが来るなんて。どういう感じかな」と、いまいちピンと来なかった。
今年1月に結婚して、4月にはもうチェハン君が生まれて「僕、デキちゃった婚なんで。生まれたときは、そんなことを考える余裕もなかった。でも先週は、初めて来てくれて本当に嬉しかった」と、改めて胸一杯に幸せを噛みしめて主戦場に帰ってきた。
日本で起きた豪雨災害の一報も、帰省中に知った。「今までで一番ひどく降ったって。ネットで見て分かって。大丈夫なんだろうか、と」。被害があった地域が開催コースのすぐ近くだと知って、なおさら気を揉んだ。
今週は、2週ぶりに日本に戻って会場に来ると、選手会長が獲得賞金の10%を寄付しようと呼びかけていた。
「大会を、開催していただけるだけでも有り難いと思った。勇太さんは、凄く良いことをしてくれると、すぐに僕も寄付しようと決めた」。
優勝賞金3000万円は、そのうち300万円を、被害にあった方々に役立ててもらえる。出場選手の誰よりも、貢献できたこともまた選手として誇らしい気持ちがする。
これで、獲得賞金は出場13試合目にして早1億円を超えた。今季4勝は、2010年の自身最多の3勝も塗り替えた。「10月で、このポジションならこのまま賞金王になりたいです」。韓国人として、初の王座についた2010年に続く、2度目の戴冠も現実味を帯びてきて、庚泰 (キョンテ)には、他にぜひ、実現したい夢がひとつ出来た。
「こういう試合で、家族に応援に来て欲しい」。次のツアー通算10勝目は、鬼が家族と熱い抱擁をかわす?!