けっしてナメていたわけではないのだが、それにしたって勝負にかける小学生たちの思いがこれほどとは、想像もしていなかった。「子どもたちの真夏の祭典を盛り上げたい」。そんな思いで心をひとつにして会場の宮城県・仙台ヒルズゴルフ俱楽部に集った今年のドリームチームの面々だったが、それは“祭典”などという生半可なものではなく、「むしろ俺たちジャマじゃね?」と、思わずつぶやいたのは“アトム”。今年のチーム最年少の重永亜斗夢。8月9日土曜日に行われた「第12回スナッグゴルフ対抗戦 JGTOカップ全国大会」は開会式から度肝を抜かれた。入場行進は 各キャプテンが小学校名のプラカードを掲げて、まるで高校野球さながら。出場24校の最後に華々しく登場することになっていたプロ6人衆は、最初は木立に身をひそめて様子をうかがっているうちに、だんだん身を乗り出して一様に声を揃えた。
「・・・なんか、すげえな」。遠目からでも、子どもたちの大会にかける熱い思いが伝わってくるようだった。子どもたちと楽しい1日を過ごすつもりで来た6人の顔が、次第にこわばっていった。
「俺らみんな、スナッグゴルフは初心者同然やのに・・・。大丈夫かな」と、ついこぼしたのは最年長のキャプテン。谷口徹は2度の賞金王の大ベテランも、いざ試合開始で「悪戦苦闘」。通常のゴルフとは、距離感から何から勝手が違う。
「子どもたちのほうが、断然上手いですよ」とはその弟子、松村道央だ。ことスナッグゴルフに関しては、確かに練習量も年季も違う。「なんせこの1年間、この大会に駆けてみな頑張ってきた子たちですからね」と言いつのる松村に、「俺らも子どもたちのプレーを参考に徐々に慣らして・・・」と谷口も神妙に頷いたように、打ったり、くっつけたりといった技術面のみならず、ルールもマナーもトッププロが、何から何まで子どもたちの見よう見まねだ。
いざ、グリーンならぬ、的の輪の中にボールを“ナイスオン”させても、プロ6人とも誰もマーカーすら持ち合わせておらずに、準備不足でオタオタ。上平栄道は、ポケットの小銭で間に合わせたのは良かったが「お金、落ちてました!」と、100円を子どもに拾われ苦笑いだ。
シン・・・と静まりかえった空気。はしゃいで羽目を外す子なんか一人もいない。みな礼儀正しくきびきびと、プレーに集中していた。そんな子どもたちに感化され、プロたちの目つきもだんだん本気に。
近藤龍一も上平も、「子どもたちの真剣勝負に逆に元気をもらった」と、パー36の9ホールで仲良く26をマーク。山下和宏は、京滋オープンと兵庫県オープンに続く、今週“3勝目”を本気で狙った。
「僕も子どもたちのように真剣プレーを楽しみました」と相変わらず絶好調のまま、25で上がってきた。
アトムはまさに百万馬力。「絶対に※(こめ)印にはなりたくない」とは、つまり今大会は6人1チームで争い、うち5人のスコアを採用。最下位の選手を除外する意味で、最終成績につく印のことで、実はキャプテンに、開幕直前に断言された。「※印はアトムで決まりや」と、そんな谷口の前評にもアトムはめげなかった。それに、「子どたちのジャマはしたくなかった」。みな自分のプレーに無我夢中で、トッププロには目もくれないかのようだ。
「俺たちプロのほうがむしろ子どもたちと一緒に回らせてもらっているみたい」。アトムは、そんな子どもたちの真剣な気持ちを自分の安易なプレーで台無しにしたくなかった。せめて自分も真剣勝負で応えたいと、谷口の予想を大幅に裏切る23をマークして大先輩の鼻も明かした。
そして、ベストスコア賞を記録した東広島市立三ツ城小学校6年生の神尾敦生(かみおあつき)くんの23を、さらに1打凌駕する、なんと22のビッグスコアでトッププロの威厳を示してみせたのは松村。プレー後のプロによるエキシビションのドラコン大会では6人のうち一人だけ、3度も打ち直して辛くも1位も、子どもたちから「3回も打つのはちょっとずるい」と、口々にブーイングを浴びたのは、確かにもっともだが驚異の大量スコアは正真正銘の14アンダーをマーク。
実は、スタート前からもっとも鼻息が荒かったのが松村で「小学生には負けられない」とか「全ホールでバーディを獲る」とかハンパでなかった意気込みも、ホンモノだった。今月19日には、待望のベビーも生まれる予定で、いま乗りにノってるパパは、「うちの子どもにもスナッグゴルフをやらせます」。まだ見ぬ子に、さっそく夢を託す“1勝”にもなった。