ツアープレーヤーたちが交代で、ゴルフの醍醐味を全国各地の小学校に伝えて歩く旅。今回は、凱旋の伝道師の巻。
秋吉翔太が、地元熊本県の大津町立大津南小学校を訪ねる旅。

今は奥さんの地元、福岡・北九州市に住む。
8時30分の始業時間に滑り込むには、早朝5時には家を出なければならない。
それでも前泊しなかったのは、1分1秒でも愛息と過ごしたい親心。
「シーズン中は、ほぼほぼ家にいないので」。
オフはせめて、ぎりぎりまで家族団らんの時を過ごしてから出ても、豪華副賞の“足”があるからへっちゃら！
学校まで約2時間の快適ドライブは、記念すべき初Vの「ミズノオープン」で頂いたポルシェのマカン。
高級外車で校門に乗り付けた。
2月16日は、学校で年に2度しかないという“土曜登校の日”だそうだ。
「土曜に学校来るのって…イヤじゃない？　僕はイヤだったぁ〜〜〜」。
元やんちゃ坊主は、子ども目線ですぐに溶け込む。
あの大地震から、もうすぐ3年。あのとき無残に崩落した天井も、地域の人たちのご尽力で今はピカピカの体育館で、まず1、2時限目はスナッグゴルフの講習会だ。

“シンデレラボーイ”と呼ばれた昨年。全米オープンの日本予選で1位通過を果たしたその週に、初Vを飾った。全英オープンの出場権を得ると、それからひと月も待たずに今度はツアー2勝目を飾った。

熊本が生んだスタープロの“帰還”を生徒以上に待ちわびた。豊田亮子・校長先生は、ご家族そろって本格的にゴルフを始めて2年目。愛用のゼクシオのヘッドカバーにサインをもらうのも忘れず、合間にプロの即席レッスンも受けるなど、この熱心さがあれば部活動へのスナッグゴルフの導入も任せて安心…！

3、4時限目の「夢を持とう」の講演会ではそんな豊田校長先生にも負けない熱さで語った。授業の前に「今日は子どもたちの“二分の一成人式”を兼ねている」と豊田校長先生から聞いた。
ちょうど10年先の人生を存分に描く一助になればと同校では、この日参加してくれた4，5年生の子たちを対象に、各界で成功をおさめた地元出身者のお話を聞く機会を設けているそうだ。

秋吉も今回、その講師の一人に抜擢されたわけだが「僕の人生なんて…お話できるようなもんじゃないです」。謙遜していたものだが、小4で県ジュニアの大会を総なめ。それからプロを目指すまで、そしてプロ入り後も紆余曲折を経たこれまで28年の人生は、子どもたちの気を引くには十分の濃密さがあった。

秋吉がゴルフを始めたのもみんなと同じ年頃の10歳のとき。
でも、練習のあまりのきつさにちょっぴり横道にそれたのは中学時代。
故郷を飛び出し、鹿児島・樟南高校の寮生活では、羽を伸ばしすぎて成績不振に。
「お前はこれで終わるような器じゃない。また初心に帰ってやってみないか？」。
こんこんと6時間もの説教で、やり直すきっかけをくれた恩師。
3年時にはジュニア日本一に上り詰めた。
翌卒業後のプロ転向から初Vまでの9年間は、それを語りだしたら時間が全然足りないからこの日は割愛したが、「めちゃくちゃ怖くて厳しかったけど、ここまで育ててくれた両親にも。僕一人ではここまでやれなかった。支えてくれる人たちへの感謝を忘れてはいけない。28歳のいま、ようやくわかったこと」。
時々、羽目も外したけど「ゴルフも遊びも一生懸命やってきたから今がある」。

子どもたちに伝えたいことがいっぱいありすぎて、黒板の前で何度も口ごもった。「何を話せば一番、みんなの心に響く？」。
一生懸命考えながら、心を込めて話した。
「世界で活躍することが、今の僕の一番の夢。そのためにいま、何をすべきか？」。
自身がいままさに、建設中の人生設計を見本に、夢の描き方をわかりやすく黒板に図式してみせた。

もうすぐ3歳になる我が子といつか一緒にラウンドしたいというのは、今の一番のささやかな夢。
「今日をきっかけに、みんなもゴルフに目覚めてくれたらうれしい」。
故郷の後輩が、自分の後に続いてくれたらうれしい。

女子ツアーなら、不動裕理さんや古閑（小平）美保さん、上田桃子さんや有村智恵さんなど、早くから県出身プロが大活躍だが「僕ら男子もやっと追いついてきた」。
先輩の重永亜斗夢も昨年、ツアー初優勝を飾った。
ちなみに豊田校長先生は、あの県伝説のランナーの後輩。放送中のNHK大河ドラマ「いだてん」の主人公、金栗四三（かなくりしそう）氏はなんと「高校の大先輩」だそうだ。
いま熊本に、波が来ている……!?
これを契機に男子ゴルフにも、もっともっと注目を集める。
「今年は昨年以上の活躍を!!　世界ランクで50位内を目指します」。
そのために、今月初旬は今平周吾とグアムでまずはこのオフ1回目の過酷なトレ合宿も済ませた。
年下の賞金王にも刺激を受けて、ますますノっていきたい秋吉だ。

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