「金谷くんと回るのは多分初めて。星野くんもいますね。勉強させてもらいます」と、大まじめに言って笑われても「本気で」と、固く念を押す。
2018年に1勝のキャリアもあるし、実力は十二分。
だが、いくつになっても自虐めいたコメントが絶えない。
後輩プロも同じ気持ちで見守っていた。
この日同組で回った木下稜介(きのした・りょうすけ)に真顔で言われた。
現在、賞金ランキングはまだ87位。
「なんでこのゴルフをしていてこの順位なんですか?」。
「それ、去年も言われた……!」。
シーズンも押し迫った昨年10月末に、ホールインワンして7位に入りどうにかシードを確定した「HEIWA・PGM CHAMPIONSHIP 」の最終日も同組で回り、木下から同じセリフを聞いていた。
同姓だが、親戚関係でもないし、出身地も千葉と奈良。
「でも木下くんとは相性が良い可能性がある」と、3日目の3アンダー「68」にニンマリする。
一昨年は最終戦「カシオワールドオープン」で2日目に達成したホールインワンが、シードに貢献。
終盤の奇跡をなぜ、序盤から出来ないか。
バンカーから手前30センチに寄せた17番と、ピン右横4メートルを沈めた最後18番の連続バーディも、16番のパー3で逃した1.5メートルのバーディチャンスがきっかけ。
「あのくらいからショートってあんまり記憶になくて。悔しかったんですけど、その反面、16番をパーで抜けれたのに出来すぎた感があったので。へこんだんですけど、パーで抜けたらバーディみたいなもんと、プラスに考えたら上がりの連続バーディにつながった」と語る。
「出来ない時が9割」と断定するポジティブ感も、なぜか追い込まれると湧き出すタイプ。
「パッティングのフィーリングがあっているのでそういう風にできるんですけど、前半戦でそういうメンタルができなくて。その辺がまだまだだなって…」。
ビッグトーナメントが増える秋口に上昇する理由も、「もともとQT組だと出れないような大会だと高ぶりが倍ぐらい違ってくるので、出てるだけでも楽しいという気持ちもまだ全然あります」。
32歳の2018年に「マイナビABCチャンピオンシップ」で初優勝と、初シードを一気にかなえた苦労人は、思考回路も初々しい。
木下のバックを担いでくれる島野キャディと、この日同組の蝉川の串田キャディは10年ほど前、まだ木下がABEMAツアー(当時のチャレンジトーナメント)でプレーしていた時「苦しくて…」と、用品チェーン「ゴルフパートナー」の千葉県市原白金通り店で7か月ほど“兼業”していた際のバイト仲間だそうだ。
「やりやすかった」と3日目は、昔話に咲きながらリラックスしてV争いに挑めたのも大きい。
さて、最終日も最終組だ。
87位の男が、賞金2位の若手に真っ向勝負。
しびれる思いは慣れっこだ。
「金谷くんは最強の相手だと思いますけど、相手が相手だけに楽しそう。ここまで来たら勝ちたい。優勝したい」。
プレッシャーを楽しみだしたらこの男は強い。