ゴルフに響いたのでは・・・と、みなヒヤヒヤしたが、第2ラウンドに「65」の19位で決勝に進むと、第3ラウンドではボギーなしの「65」を記録し、3差の8位タイから出た最終日にあれよと日本勢6人目の欧州初制覇を達成。
あっぱれな逆転Vだった。
3差で上がり、後続のプレーを待つ間、スタッフが改めてお化け屋敷のお詫び。
「全然全然、大丈夫でしたよ!むしろ厄落としになりました」と、桂川。
その笑顔はいつも誰かを癒やす。
「ユウトを漢字一字で書くと“漢”」とひょんなことを言ったのは、今週バッグを担いだ串田雅実キャディ。
漢は、おとこ=男とも読む。
「肩で風を切る男ではなく、謙虚に背中で見せる漢(=おとこ)」という串田キャディの少し強引な持論も、普段を見ればうなずける。
いつも穏やかで腰が低い。
でも、随所で見せる芯の強さと度胸は筋金入りだ。
本人は、3差でターンしたころから「緊張で手が震えていた」と言ったが、隣にいる串田キャディには「いつも通りに見えた」という。
「10番で優勝を意識しはじめたところから、失敗を畏れる自分が出てしまった」と言ったが、実際の後半プレーはみじんも見せない独壇場。
13番で、左のラフから高く上げるアプローチで拾ったOKパーは圧巻だった。
直後の3連続バーディは、14番で2メートルのチャンスを逃さず、15番で10メートルを決め、16番はグリーンの外からパターでイン。
「ゾーンに入ってました」と、ガッツポーズを炸裂させた。
「自分はできると思い込んでやってみたら上手くいった」。
日本開催の欧州ツアーも「今年一番勝ちたかった試合のひとつ」と、有限実行だった。
「無事優勝できて、ほっとしています」。
半田晴久ISPS会長が「漫画みたいだった」と評した劇的展開。
大会の2週前に行われた事前の告知会見に桂川も参加し、半田会長と「凄いと思わない。意識の壁を破っていこう」と、約束した。
「言ってたとおりになったね」と、半田会長。
聞けば聞くほどこの日の何もかにもが神がかって聞こえてくる。
昨季、挑戦した米二部「コーンフェリーツアー」でPGAツアーには昇格できなかった。
でも「後悔はなくて、経験することが大事。肌で感じることができた」と言い、戻ってすぐ肉体改造に着手。
飛距離を伸ばし、目澤コーチの指導で課題の小技も徹底習得した。
この日いくつも見せた神業は、その多くがこの日のスタート前に「そういう場面が来ることを想定して練習したやつだった」と、まるでテストの山勘が当たったみたいに言った。
「全部うまくいってくれた。あの練習がなければ優勝はなかった。ゴルフ人生で一番良いラウンドができた」と目澤コーチに感謝した。
ホームでの出直しを誓った今季、「すでに日本ツアーで集中モードに入っていた」という矢先に、日本開催の欧州ツアーで史上6人目の日本勢V。
獲得した2シーズン分のシード権を駆使して狙うのは“久常ルート”だ。
欧州ツアーのトップ10にはPGAツアーの出場資格が付与される。
「小さいころからの夢や憧れの場所。強い選手と戦ってみたい。今年はもう1勝してPGAツアーに上がれるように頑張りたい」と、もうすぐ次の目標を口にした。
優秀キャディとして表彰され、「海外1勝ができてハクがついた」と、胸を張った串田キャディ。
「串田さんは僕より大きいし、僕より目立つしプロよりプロみたい」と笑った桂川。
愛知県清須市から応援に駆けつけてくれたお母さんの亜紀さんが着用していたこの日のウェアは、上から下まで桂川がプレゼントしたものという。
前回、初優勝のホストVは見に来られなかったから「目の前で見られたのは初めて」と、たいへん喜んでおられた。
次週「ボルボチャイナオープン」から出場資格があるが、ビザの発給が間に合わず、最初の予定どおりに今週は「中日クラウンズ」に出場する。
今回の地元開催は、大型連休と重なる。
お母さんも仕事はお休みだ。
「私もなんで?と思うくらい、優しい子なんですよ」と、亜紀さん。
母の日も近い。
2週続きで親孝行するかもしれない。