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JCBクラシック仙台 2002
「今週は、アプローチなら、天下一品」
油断していると、体ごと持っていかれそうなほどの強風が、コースに吹き荒れた、最終日。
しかし、鈴木がこれまで2度経験した全英オープンは、この程度のものではなかった。
「126ヤードを6番アイアンで打ったこともあった」。
先週、7年ぶりの優勝で、敬愛する中嶋がその全英の出場権を、ほぼ手中にしていた。先月の日本プロから、6戦の賞金ランク上位4人に、出場権が与えられるのだ。
それまで、鈴木には、苦手意識があった大会ではあったが、「中嶋さんが行くなら、オレも一緒に」と、視野に入れた矢先だった。
「なのに、全英に行こうって人間が、このくらいの風でへこたれてどうする」4年ぶりのメジャー挑戦を、この日の発奮材料とした。
また、今週は、パッティングが不調だった。
前半、3つのボギーのうち、2つが、3パットでのものだった。
「こんなんじゃ、オレが勝つなんて、ありえない…」
諦めかけたとき、前日、コースの行き帰りに、中嶋の車の中で聞かせてもらったテープを、思い出した。
『勝利の条件』というタイトルのその中身は、「絶対に勝てそうもないときに勝つのが、真の勝者」「ないものねだりをせず、いま、自分にできる最高のものを使って、勝ちなさい」というもの。
いまの自分に、その内容を、当てはめてみた。
「今週、オレはグリーンまわりのアプローチなら、天下一品だ」
自信が持てないパッティングのかわりに、好調のアプローチをフル活用で、ツアー6度目の頂点にのぼりつめる、きっかけとした。
12番では、奥バンカーから、80センチに寄せてバーディ。
14番でも、右のバンカーから、2メートルにつけて、チャンスを奪った。
中嶋とのプレーオフを制した瞬間、鈴木は、ガッツポーズはしなかった。勝利の喜びへのリアクションは後回しで、帽子を取ってまずまっ先に、中嶋に歩み寄り、言った。
「今回も、本当にお世話になりました…」
今回のツアー6勝目は、中嶋の存在抜きでは、語れなかった。
「オレに運転手までさせておいて、優勝までしやがって!!(笑)」中嶋なりのジョークを交えた、チャンピオンへの賛辞を、照れ笑いで受け止めながら、鈴木は、恩人と、がっしりと握手を交わした。