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竹本直哉が逆転優勝/マスターズGCクラシック最終日
大会主催の延田グループの延田清一・代表取締役会長から優勝カップのマスターズGCクラシック杯も授与された。
優勝賞金540万円も、延田久弐生・代表取締役社長よりすでに受け取っていた。
チャンピオンとしての仕事はひとまず、すべて終了したはずだった。
しかし竹本には、何か大切なことを忘れているような気がしてならない。
思い当たったのは、今大会特別主管の(社)日本ゴルフツアー機構・会長の島田幸作の閉会の挨拶を聞いているときだった。
「竹本くんの最後のひと転がりには、何か見えない力が働いていたのではないでしょうか」と、島田会長は言ったのだ。
1打差で迎えた最終18番。6メートルのバーディパットは、やや上りのフックライン。
「入れ!」という叫び声とともに、ボールはまさに最後のひと転がりでポトリ、とカップに落ちた。
2位の富田雅哉を2打差で突き放し、優勝を決定づけた劇的な1打。
しかも、それだけではない。
この日は、そんなパットがいくつもあった。
たとえば、9番の6メートルのパーパットは、これまた最後のひと転がりでカップイン。
「ほかに10番も11番も12番も…」。数えだしたらキリがない。
普段なら、間違いなく外しているようなきわどいパットがいくつも決まった。
ボギーなしのベストスコアの65をマークして、逆転で自身2度目の頂点に立った。
島田会長はそれら奇跡の数々を、竹本の善意の心が届いたからだと評価した。
昨年8月のツアー外競技「南都(なんと)オープン」で初優勝をあげたとき竹本は、賞金の一部を役立てて欲しいと、地元・和歌山県湯浅町の福祉協議会に寄贈した経緯があった。
「そんな彼の温かい心が、今日の優勝を導いたような気がします」と、島田会長は言ってくれたのだ。
心の中で「いえいえ、そんな、とんでもない」と謙遜しながら、ハっと竹本は閃いた。
“最後のひと転がり”を後押ししてくれたのはきっとこの人。
母・茂美さん。
女子プロゴルファーとして活躍しながら、女手一つで育ててくれた。15歳で単身渡米を勧めてくれたのも母だった。
息子が一番ゴルフに没頭できる環境を常に万端用意して「余計な心配はせずに、思い切りやりなさい!」と、いつも笑顔で尻を叩いてくれた。
2打差の3位タイからスタートしたこの日最終日は自宅から車で2時間かけて、応援に来てくれた。
どんな苦労もおくびにも出さず、何より息子の成長を願い続けた母の祈りがこの日、ゴルフの神様に届いたのではないだろうか。
そう思い至った竹本は、いてもたってもいられなくなった。
さきほど済ませたばかりのスピーチで、そんな母への感謝の言葉を伝えていない。
慌てて、司会のアナウンサーに耳打ちだ。
「あとでもう一度、マイクで喋っていいですか?」。
再度、壇上に快く送り出されて改めて、てらいもない母への思いを吐き出した。
「親には、こんなときしかありがとうって言えないでしょう?」と照れ隠しでおどける竹本のかたわらで、茂美さんの涙はしばらく止まらなかった。