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日本オープンゴルフ選手権競技 2002
「グリーンは、長い時間をかけて作られる」
11年前、ここ下関GCで行われた91年大会で、こんな逸話がある。
「出場選手の中には、試合が終わるまで、ここが高麗グリーンだって気付かなかった者がいたんです。『え?ベントグリーンじゃなかったの?』なんてね(笑)。それほど、素晴らしい転がりをしていた」(川田太三・大会実行委員長)。
高麗グリーンはもともと1本1本の葉が太く、硬いのが特徴だ。
だから、トーナメント用にスピードを出そうとしどんなに短く刈っても、どうしても、芝目が強く出てしまう。
のぼりのラインなどは、かなり強くヒットしていかないと、その目に負けてしまう。
苦手意識を表す選手が多いのは、そのためだ。
だが、ここの高麗グリーンに限っては、その図式はあてはまらない。
「下りのラインなら、ベント以上に速くスムーズな転がり」(手嶋多一)と、今年も、選手らに高い評価を受ける。
その立役者、西尾辰昭グリーンキーパー(=写真上)は、
「コースはね、たった1年やそこらじゃ、出来るはずもないんですよ。みなさんの評価をいただけるまでには、何年も何年もの月日がかかったんですよ」。
そう話す表情には、一徹さが漂った。
コースのヘッドプレーヤーの松永一成がその西尾さんについて、こんなことを話していた。
「たとえばね、練習中に『ちょっと一休み』と練習グリーンのそばのラフに、直に座るとするでしょう。そんな姿を、西尾キーパーに見つけられたら最後です。『俺が一生懸命創った芝に、なんちゅうことをするんだ!』って怒鳴られる。それくらい、コースつくりに、大変な誇りを持っている人。心から、ゴルフ場を愛しているんでしょうね」
本戦に入れば、グリーン上には西尾さんとコース管理の方々の手で毎朝丹念にローラーがかけられ、“スライシング”という、芝を梳く作業が行われる。
現在、11フィート弱を記録しているスティンプメーターは、「決勝ラウンドには、12フィートにする計算」と西尾さん。そうして、手塩にかけられたコースで、いよいよ、伝統の1戦が幕を開ける。
今年は、雨が少なかった関係で、ラフの成長が思うようにいかず、「その点が残念」としながらも、「グリーンの仕上がり具合には、自信を持っています」と、西尾さんは、本番を心待ちにしていた。