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東建ホームメイトカップ 2008

手嶋多一「国民を敵に回す覚悟はできています」

17番で奥から5メートルのバーディパットを決めて、いよいよ石川をとらえた。プロ16年目の手嶋が、16歳の前に立ちはだかった。

強風が吹き荒れたこの日3日目は、前半の3番でボギーが先行した。
「今日は昨日よりもずっと厳しいコンディション」。
5番でもボギーをたたき、暗雲垂れ込めたが「とにかくこれ以上、ミスはしないように心がけた」という。

7番のバーディで流れを引き戻した。スプーンで打った残り220ヤードの第2打は、低い球でグリーンをとらえ、奥から2メートルをねじ込んだ。
難条件で、培われた経験が生きた。
昨年は、欧州ツアーに本格参戦。
しかし準シードすらとれず、打ちのめされて帰国したが、「寄せられない方向には打たない、とか貴重な勉強をさせてもらったと思う」と振り返る。

「今日は風との格闘でいっぱいいっぱいで」と無欲を強調しつつ、スコアボードは逐一チェックしていた。
「遼くんはすごいな、と思いながら回っていた。僕は思いがけず、良いゴルフができました」と、のほほんと笑ったが、最後にしっかりと敵を捕まえた。

石川との最終日最終組は「勢いのある人と回れてうれしい」と、殊勝なことを言う。
「勝とうとは思ってないですよ。ていうか、無理でしょう?」と、しおらしい。
「まあ…また明日も風が吹いたら、どさくさに紛れようかな」と、冗談交じりに笑った。

しかし、その一方で「遼くんを、普通の“ルーキー”とは思っていない」とも。
「まるで、彼はタイガーみたい。明日は、プロとして勝負するしかない」。
つまり、同じ土俵に立つ者同士、容赦はしないということだ。

クラブハウスのテレビモニターで、そんな手嶋のプレーぶりを見ていた矢野東がつぶやいた。
「明日、怖いのは手嶋さん。怖いほど、マイペースな人だからね」。
ひとたび自分の世界に入ったら、驚異の集中力を発揮する。
そんな手嶋には、石川フィーバーも障害にはならない。
「国民をみんな敵に回す覚悟はできています」と何気なく言った言葉に気持ちが表れた。


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