Tournament article
カシオワールドオープン 2010
松村道央が30代目のチャンピオンに
続く16番で、慢心のボギーを打って、再び混戦に足を突っ込んだ。17番で、7メートルものパーパットをしのいだのは大きいが、それでもここまでゲームを長引かせなくとも、済んでいたはずだった。
「プレーオフの2ホール目だって、1メートルのチャンスを決めておければ」。結局計4ホールの激闘は、最後に金が2打目を右にOB。対して2オンに成功した松村は、返しの1メートルのバーディトライを打つ前に、金に呼び止められた。
「ギブアップします」と金は言って、握手の右手を差し出してきた。
今年の30回の記念大会を迎えたカシオワールドオープンは、勝者がウィニングパットを打たないという珍しい優勝シーンとなって、「やっぱり最後はきっちり入れて、終わりたかったな」と、ちょっぴり贅沢な愚痴もこぼれた。
本戦のホールアウトから、約1時間半。風光明媚なここKochi黒潮カントリークラブにも刻々と夕暮れが迫り、冷え込みもきつくなっていく。それでも辛抱強く、決着を見届けてくださった大勢のギャラリーのみなさんに紛れて「師匠」の顔を見つけて、頬が緩んだ。
今オフの宮崎合宿を機に、何かと気にかけてくれるようになった谷口徹が、武藤俊憲と一緒に、“弟子”の戦いぶりを最後まで見守ってくれた。
祝福の言葉は、苦笑いでひとこと。「ハラハラさせんなよ」。短いセリフに、後輩を思う優しさを感じて嬉しかった。
シーズンも終盤を迎えたころ、その谷口に言われていた。「チャンスなんだから狙っていけよ」。終盤の3戦は、優勝賞金4000万円の大会が続き、自身初の年間獲得賞金1億円超えも夢ではなかった。
先週のダンロップフェニックスも、気合いが入ったが無念の予選落ち。観察が趣味の選手は、自宅のテレビで池田勇太の優勝シーンを事細かに分析してその強さの秘訣を頭にたたき込んだ。
そしてこの日はその池田との最終日最終組に、「とにかく勇太より先に打って、勇太に勝てばいい。なるべくオナーは譲らない」と決めて、6番からの4連続バーディでついに逆転に成功すると、あとは若大将には影さえ踏まさなかった。
逆転賞金王をかけて、開幕前より「今週は絶対に勝つ」と宣言していた池田の今季5勝目を阻止した。これで賞金ランク5位に浮上も、もはや賞金レースに割って入ることは出来ないが、せめて「来週も上の人たちのジャマができれば」と、ニヤリと笑った。
27歳の1億円プレーヤーは、この1勝にますます自信をつけて、「これからも、3勝、4勝と重ね、出来るだけてっぺんに近づけるように頑張りたい」と、来年以降の賞金王獲りも視野に入れた。