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ゴルフ日本シリーズJTカップ 2010

藤田寛之のエースキャディが泣き崩れた訳は・・・

「あれ?梅がいない・・・」。と、グリーンの端っこで崩れ落ちたまま。同組の池田も気遣うほどの泣きように藤田もびっくりして・・・
最後に主役を奪われた? 60センチのウィニングパットを決めた瞬間に、泣き崩れたのは、チャンピオンではなかった。エースキャディの梅原敦さん。

膝からその場に崩れ落ちたまま、長いこと立ち上がれない。

キャップのひさしで顔を覆い、号泣していた。むしろそのけなげな姿により多くの惜しみない拍手が送られたと思うのは、チャンピオンの気のせいだろうか?

「主役を奪われた気分になりましたね」と、藤田は苦笑した。
「しかし、置いてくわけにもいかない。きっと彼にも何か、思うところがあったんでしょう。立ち上がるまで、待ちましたよ」と、笑わせた。

何気ない風を装った藤田だが、梅原さんの涙の訳は、十分に理解していた。
あれはちょうど昨年の今大会だ。

3日目に、梅原さんと大げんかをした。
内容は、些細なこと。しかしことは、一度は12年目のコンビ解消という深刻な事態にまで発展した。

「僕が、天狗になっていた部分があったんです」と、梅原さんは言う。「藤田さんとも付き合いが長くなり、調子に乗っていた。言葉遣いもなれなれしくなっていて、ついに試合中にしてはいけないことをしたんです」。

ちょっとしたことで言い争いになったとき、梅原さんが怒って藤田のキャディバッグを強く叩いたという。
あとで藤田が親しい人に、「あれはショックだった」と、打ち明けていたことを知った梅原さんは、ようやく自分がしてしまったことの重大さに気づき、責任を取る意味で“辞職”を申し出た。

「でもしばらくたって、やっぱり僕は、藤田さんのキャディしかない、と。謝って、もういちどやらせてください、と」。
「梅ちゃんがやりたいと言ってくれる限り、俺は切る気はない」と、藤田は即答した。梅原さんの涙には、ちょうど1年前のそんな背景があった。

泣きながら「すみませんでした」と声にならない声で、1年前の非礼を改めて詫びた梅原さん。藤田にはその思いが痛いほど伝わってきた。「立ち上がれないほど泣いてくれた。そのことに感動して・・・・・・」。藤田もまた、梅原さんの姿に男泣き。

「いま、この瞬間、藤田さんのそばにいられたことは最高に幸せです。心を入れ替え今年、キャディとして再出発を誓った僕にとってはこれが“1年目の今季2勝目”。ましてこのコースでこんな思いをさせてくれた藤田さんに、心からお礼が言いたい」。絆を深めたツアー通算10勝目だった。

  • 昨年の非礼を涙声で詫びた梅原さん。
  • 梅原さんの様子に藤田の目からも涙がこぼれて・・・
  • そして極めつけはホールアウト後の師匠の抱擁。「今年最後に芹澤さんの前で勝つことが出来て最高でした」と、もはや涙が止まらない

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