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長嶋茂雄 INVITATIONAL セガサミーカップゴルフトーナメント 2011
金庚泰(キムキョンテ)が今季初優勝
北海道の大空を振り仰いで、何かつぶやく。
「ああ、やっと終わったな、と」。
4打差の単独首位で迎えた最終日は、「今日は4つ伸ばす」と決めていた。「ボギーも絶対に叩かない」。それなら絶対に逃げ切れる、と踏んでいた。
ただし相手は石川遼だ。怖さは嫌というほど知っている。
「彼は他の誰にも出来ないプレーが出来る」。どんな不可能も、可能に変える。ここぞという場面で奇跡を起こす。「彼は魅せるプレーが出来る」。
油断は絶対に許されない。たとえチャンスホールの13番パー5で、彼が第2打を池に入れたとしても。再び差が4つに開いても。
淡々と見える表情にも、「プレッシャーを感じていた」という。17番で、石川のバーディトライがカップを舐めた瞬間も、ヒヤリとした。
「あれが決まっていれば、分からなかった。2打差で18番を迎えていたら、負けていたかもしれない」。
そんな動揺は、しかし微塵も見せず、重圧はひた隠しにしたまま打ち克った。くじけそうになると、父母の姿を捜した。前日土曜日に、きゅうきょ母国韓国から応援に駆けつけた。これでツアー通算4勝のうち、3勝を目の前で見せてあげられたことも嬉しい。
「ジュニア時代から、相当苦労させてきましたから」。
父母が見ていると思うと普段以上の力が出せる。「もっと頑張ろう、もっと努力しようと言う気持ちになる」という孝行息子だ。
長嶋茂雄賞100万円(※)は、もっともアグレッシブなプレーをした選手に贈られる。しかしプレゼンターをつとめたミスターが、金のプレーでもっとも感銘を受けたのは、「パッティングのうまさとステディなプレー」という。
石川が動なら金は静。「アグレッシブな石川選手とプレーするのは楽しい」と、彼が熱くなればなるほど淡々と、圧倒的な安定感を発揮して、またしても19歳を凌駕した。
先週の全英オープンは、無念の予選落ち。経験したこともない強風に対応しようと、低いボールを打つうちに、スイングを壊した。
「風とリンクスに、順応出来ない自分がいた」。メジャーの雰囲気にものみ込まれた。「足りないものが、たくさんあると感じた」。打ちのめされて帰国した。「もっともっと、努力しないといけない」。練習場で、今まで以上に球を打ち込んだ。今季初Vへとつなげた。
日本ツアーは、これまで2試合連続で韓国選手の優勝が続き、3試合目にしていよいよ真打ちが名乗りを上げた。いま、一大勢力を築きつつある韓国勢の牽引役は、出場6試合目にして賞金ランクは1位に躍り出て、18番のグリーンサイドで待ち構えていた仲間が袋だたきの手荒い祝福……!!
メジャーなど、海外ツアーに出場出来る機会が増えて、今季は昨年よりも日本で出られる試合が減る見込みだ。そのため「今年は難しいのでは」と、弱気になった時期もあったが、やはり年頭に決めた目標を貫くことに決めた。
「2年連続の賞金王を狙います」。そんな大きな決意さえ、まるで何でもないことのようにこの人は言う。いつも静かな物言いと振る舞いが、近ごろではかえって凄みさえ、感じさせるようになってきた。
※長嶋茂雄賞とは……アルバトロス1回につき10、ホールインワンが8、イーグルが6、バーディを1ポイントで換算し、大会期間中に最も多くポイントを獲得した選手に、大会名誉会長で、読売巨人終身名誉監督の長嶋茂雄氏から賞金100万円が贈られるというもの。金は2位の石川遼をここでも4ポイント差で引き離し、4日間で1イーグルと21バーディを奪って合計27ポイントでの受賞となった。