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アジアパシフィックオープンゴルフチャンピオンシップ パナソニックオープン 2012

2週連続の今季4勝目がかかる、藤田寛之

最終9番で、藤田の目がきらりと光った。グリーンサイドのスコアボード。「トメちゃんが、7アンダーに上がってる!」。“トメちゃん”とは、弟弟子の宮本勝昌の愛称だ。伝説のプロゴルファー・宮本留吉さんと同じ名字ということから、学生時代についたあだ名だ。近頃は宮本をあまりそう呼ぶ選手もいなくなったが、家族よりも長く時間を過ごす藤田には、今も宮本は「トメちゃん」だ。

前日水曜日の練習日も、師匠の芹澤信雄とともに、藤田もつきっきりでアドバイスを送った。
「昔からずっと見ているので。何も言わなくても、トメちゃんが何で悩んでいるか、僕には分かるので」と、思わずクラブをつかんで、指導するシーンも。

「“トメちゃんが良いときは、こういう動きをしていたよ”と言いました。もともとものすごい力を持っている選手なので、僕が教えたからというわけではないでしょうけど、やっぱり気になる。次の日に、こうして良いスコアを出してくれるとほっとする」。

同時に、兄弟子にもこの日最後の火がついた。「一緒のスコアで上がろう」と、最終ホールで98ヤードの3打目を「1メートルちょっとくらいにつけた」。バーディ締めで、宮本に並んだ。クラブハウスのバルコニーから、中のレストランにいる宮本を見つけて、ガラス越しのハイタッチで好発進をたたえ合った。

先週のANAオープンで、自身初の3勝目をあげて、賞金ランキングはトップに躍り出た。
いつものように、最後までプレーを見届けてくれた宮本は18番グリーンで、「おめでとう、本当に凄いね」と、感心しきりで祝福をしてくれた。

「前は“僕も”と励みにしてくれていたけど、最近は一目置くような感じでトメちゃんは自分を見ている」と、藤田は感じている。確かに40代を過ぎてからの活躍は、誰もが目を見張るほどで、特に今、ゴルフに深い悩みを抱えている宮本には「近頃は、藤田さんの活躍は刺激にもならない」と、まるで諦めた人のように言う。

「お互いに良いとき、悪いときがあって。トメちゃんも必ずまた良いときが来る」と藤田は信じて疑わないが「最後はやっぱり、本人の力ですから」。自身の活躍も、「本心ではきっと励みにしてくれてるはず」と、ひそかにそう思うようにしている。

チーム芹澤にはひとつルールがあって、勝った翌週1週間は、メンバー全員に夕食をごちそうすることになっている。すでに二晩が過ぎて「昨日は寿司、一昨日は焼き肉」と今週は、芹澤と上井邦浩と、トレーナーにキャディに、そして宮本と大所帯の支払いはけっこう経費がかさむが「いやいや、それくらいは稼いでますから」とスポンサー役も、いま絶好調の藤田にとって気分は悪くない。
特に、2人揃って好発進したこの日は宮本の希望で「焼き鳥」とすでにメニューも決まっており、今日の晩餐はまた格別の味となりそうだ。

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