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フジサンケイクラシック 2013
松山英樹が今季3勝目、自身初のプレーオフを制す【インタビュー動画】
先に打った韓国のS・J・パクがピンそばにつけたことは、グリーンのほうから届いてきた大歓声で分かった。先週、ツアー初優勝を飾ったばかり。ちょうど2週間の短い夏休みを取っていた松山は、パクの優勝シーンは見ていないが、引き続き好調であることを、伺わせるスーパーショットに火がついた。
「絶対に、内側につけてやろう」と誓った。「プレッシャーをかけてやろう」と思った。6番アイアンを握った。渾身の一撃は、パクよりさらにピンそばの80センチ。大学の先輩も加えて三つ巴のサドンデスは、谷原もろとも振りちぎる、劇的幕切れ。
先月は米ツアーで、シード権を手にして凱旋帰国したばかり。海外のメジャー2戦でトップ10入り。賞金ランキングは、2位に約9700万円差(海外獲得賞金含む)をつけて、ぶっちぎる。
いま、最強の男が約2ヶ月ぶりに帰ってきた日本で、改めてその強さを知らしめた。今大会は2009年に、本戦の出場権をかけた予選会「マンデートーナメント」に出ていた。しかし、当時アマチュアの明徳義塾高校3年生は、75を打って戦わずしてコースを去った。
あれからわずか4年で、驚異の成長をとげて、堂々といまここに立つ。
「目標は、海外のメジャーで勝つこと」。夢はあのころと、変わっていない。しかしそのためには課題も残る。「今日は18ホールで終わっていれば、みなさんも雨に濡れないで済んだんですけど」。満員のギャラリーに真っ先に詫びたのは、72ホール目。
今週の弱点がもろに出た場面。1打差で迎えた本戦の最終ホールは、1.5メートルのパーパットを決めておけば、プレーオフにもならずに済んだ。大雨は、その直後から降り始めた。
雨中の観戦を回避出来る場面は他にもあった。4打差の首位で出た最終日は16番のパー3で、大ダフリの池ポチャ。ダブルボギーを打つなど、自ら大混戦に足を突っ込んだ。
「4日間のうち、今日みたいに1日はへたくそなプレーが出る」と反省しきり。「パットの調子がほんとひどくて。本戦の18ホールは不甲斐なさ過ぎ」。びしょ濡れのまま、最後までハラハラドキドキさせた。「今日1日、もっと安定したプレーが出来ていれば」と、大勢のギャラリーにも恐縮しきりだ。
パーパットを外したときも、本当に悔しそうだった。肩を落としてうなだれたまま、しばらく動けなかった。パターヘッドを何度か平手で叩いて顔をゆがめた。パクと、谷原と、プレーオフに挑む3人の中でももっともダメージが大きく、形勢が不利にも見えたがそれで終わらないのが、怪物と呼ばれるゆえんである。
3人タイで並んで「むしろ、開き直れた」という。「逆に、落ち着いたというか。あとは、勝つか負けるかなので」と、73ホール目からのみごとな切り替えで勝利の女神を引き当てた。
いつも豪華なゲストが登場する表彰式のプレゼンターは今年、長野五輪の銅メダリスト。スピードスケートの岡崎朋美さんから真っ白な優勝ジャケットと、伝統の優勝杯を受け取れば、自ずと思いも高まっていく。
岡崎さんは、次のソチ五輪も狙っているそうである。42歳のアイアンウーマンにも負けられない。岡崎さんにもエールを受けて、112年ぶりにゴルフ競技が復活する2年後のリオ五輪も「ぜひ出たい」と、松山は力を込めた。
さらに、次の東京五輪は28歳。「そのとき、自分がどうなっているか」。7年後の自分に日の丸を背負う資格はあるか。また、日本中の期待を受けて戦うプレッシャーとは、いかほどのものか。
「今は想像出来ない」。もちろん、それは誰にも分からない。でもだからこそ、今はまだ見えない頂上に向かって、ただひたすらに歩いていくしかない。
雨上がりの表彰式で、今は厚い雲の向こうに隠れている頂きを仰いで「今日は富士山は見えませんけど、今日、ここで勝てたことが嬉しいです」と、晴れやかな笑顔で松山は言った。「7年後にも皆さんに応援されるような選手でいられるように。1日1日を大切にして、2020年に金メダルを目指せるように、頑張ります」と、富士の麓で誓った。