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Thailand Open 2013
矢野東が暫定2位に
ひたすら無心に目の前の一打と向き合ったら、前半を終えた次点で単独首位に立っていた。
「今年はここ数年にないくらい、良い状態でシーズンを迎えられたと思う」。吞み仲間の平塚哲二や久保谷健一も「今年の東は相当行ける」と、酒席で太鼓判を押しているそうだが、見立ては間違いではなかった。
2日目にしてパドレイグ・ハリントンや、クリス・ウッドといった招待選手を従えて、ワンアジアとジャパンゴルフツアーの初の共同主管の大会で、日本を代表して堂々と優勝争いに加わった。
2008年には、あの片山晋呉と賞金王争いを繰り広げた男も、近頃はめっきり元気がなかった。
スイングを極め、吐くほどのトレーニングで身体を鍛え上げ、「デビュー当時よりも確実に精度は上がっているのに」。やればやるほど結果が出ない。コーチの内藤雄士さんを含め、周囲の誰もがそんな矢野を評して「東はコースでゴルフをしていない」。
完璧を求めすぎていた。いざ試合が始まっても練習場でやるような試行錯誤が止められず、スイングの型にこだわり、スコアメイクもそっちのけ。「頭でっかちに、なっていたと思う」。
むしろ体重は60キロくらいしかなくて、ひょろひょろとか細い体型をしていたデビュー当時のほうが、今よりもっとプロゴルファーらしかった。「下手は下手なりに、無理にでもスコアを作って、稼いでやろうと真剣だった」。
今シーズンこそ、原点に帰ろうと思った。
「子どものころに戻って、何も考えずに穴だけ見つめる」。カップにボールを放り込むことだけに集中する。
「コースに来たら、内藤さんにも連絡しない」。スイングをビデオに撮って見直したりもしない。「コースに来たら、ショットが曲がろうが何しようが少ない数で上がったもん勝ち」。
そう決めたら、迷いが消えた。
「今週は、ゲームに凄く集中できていると思う」。
コースに出たら、スイングの形にこだわるよりももっと大事なことがある。「その場の空気や雰囲気を感じて、臨機応変に対応すること」。
この日は、前半の6番からいきなりドローボールに変えて攻めたのもそう。
「このコースは、ほとんどのバンカーや池が、左サイドにあることに気がついたので」。
また、後半からパターのグリップを、逆手に握り替えたのも同じこと。
「あまりにも入らないから」。独特の芝質に、直感が働いた。「クロスハンドのほうが、良いストロークが出来る雰囲気があったから」という。
オフはここ数年、積極的にアジアンツアーに参加している矢野が思うことは「ここで日本人選手に不安があるとしたらグリーン上だけ」。目の強い芝質さえ攻略出来たら、「俺たち日本人が、絶対に勝てる」と、言い切った。
今回、共同主管のワンアジアは2009年に発足したばかりで、まだまだ発展途上にあるツアーといっていい。
「強い選手は、みなアジアンツアーに行くんです」。今週は、欧州との共催試合がインドで行われており、一流どころはみな、そちらに流れていると聞く。
「なおさら日本人が勝たなくちゃ」。デビュー当時の輝きを取り戻した35歳が、タイで日本選手の根性を見せつける。