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中日クラウンズ 2017

選手会長が地元名古屋でツアー通算4勝目

選手会長が、和合の最終ホールで跳んだ、吠えた。
宮里優作が、住んで4年目の名古屋でツアー通算4勝目を飾った。
和合で実に15年ぶり2度目の最終日最終組は「だいぶオッサンにはなりましたが」。
前回は、21歳の2002年。アマ時代にジャスティン・ローズと競って4位につけた。あの頃は若かった。でも今だって、あの頃に負けないくらいの若々しい跳躍で魅せた。

強豪ひしめく大混戦の最終日は「つばぜり合い」。
難攻不落の和合は「どこまで我慢しきれるか。我慢勝ち。今日も毎ホールでしびれていて。まさか微笑んでくれるとは!」。

大学の後輩の藤本と、どうにか首位で並んで迎えた18番。奥から6メートルのバーディトライは本当に、難しかった。
最初スライスラインを描いたボールは外れたと思って一度は握ったガッツポーズを下ろしかけた。
「2パットのプレーオフでも構わない」。
それでも入って欲しかった。
念力みたいにどうにか「カップに引っかかった」と最後の最後にフックして、右の端からくるりと回って、ぽとりと落ちた。
歓喜が弾けた。「みなさんの声援に押されて入ってくれた」。
大歓声をBGMに、飛んで、跳ねて、優作が宙を舞った。

今大会は、昨年まで2年連続の予選落ち。始まるまでは、予選通過が目標だった。
58回目のクラウンズでまさか、最後に伝統の王冠を掲げて「重たすぎて、びっくりですね」。
和合で初めて持つ優勝トロフィの重さがリンクした。

兄として、弟として、父として、そして何より選手会長として、すべての重荷を背負って勝った。
「選手一丸となる中で、旗振り役として頑張るしかないと」。昨年、引き受けた選手会長職。
ことあるごとに、マイクを握ったこの1年と約半年。
最愛の家族の前で2年ぶり、就任してからなら初の優勝スピーチも手慣れたものでも、勝者というより選手会長の顔。
主催者と、関係者と大勢のゴルフファンのみなさんへの感謝と、男子ゴルフのアピールと。
私的なことにはいっさい触れなかった。
「今年、中部地区ではこのあとまだ3大会ありますので。みなさん、ぜひ足を運んでいただけたら!」。

ツアーきっての優等生ぶりは、生徒副会長をつとめた中学時代から変わらない。
勝って「ホッとした」のは人並み以上の責任感ゆえ。
妻の紗千恵さんが、目頭を熱くしながらつぶやく。
「何でもストイックにやらなければ気が済まない人ですので」。
めったに愚痴を言わない夫がこのオフ、ふとこぼしたのが「もう少し、ゴルフがしたかった」。

昨年、JGTOの会長に就任した青木功との二人三脚は「青木さんも、大好きなゴルフもやらずに頑張っておられるのだから」と本業は二の次で、会議やイベントに奔走しながら、それでも勝たなければこのあと引き継ぐ若手に、前例を示せない。
二足のわらじの信念で、V争いは二倍の重圧。
「背中にいろんなものが乗っかって。勝つまでは、息苦しかった。重かった。勝ててすっきりした」とこの1勝で、少し重荷を軽くすることが出来た気がした。

次週は藍さんが出場する女子の公式戦「サロンパス杯」。
でもしっかり者の妹よりも「若干、聖志が心配」と、今度は兄を気遣う心優しい弟の顔。
そして今週は和合から、車でわずか15分の“自宅通勤”。
「送り迎えとお風呂と寝かしつけ担当」と、試合中も良き二児のパパの顔は相変わらず。
今オフは、長女の萊杏(らん)ちゃんが通う南山大学附属小に、スナッグゴルフのコーチングセットを贈った。
来月にはスナッグゴルフの全国大会を賭けた中部予選の出場も決まって大型連休に突入したこの土日は、パパの36ホールにつきっきり。
父のゴルフを1打も逃さずメモして「どうしてあそこでボギーを打ったの?!」。
誰より厳しい小さな“スコアラー”の好きなプロが「宋永漢(ソンヨンハン)」とはお父さんとしては、ちょっぴり複雑でも「ヨンハンならいい。カッコイイから」。まだ2年生にしてお目が高い娘がちょっと誇らしい気持ちも少し。
スナッグゴルフの予選大会でもパパみたいに勝ちたいと、そんな娘の良き手本になれたことも嬉しかった。

昨年は、紗千恵夫人の父上が亡くなり、「誰よりも応援してくれた人。名古屋での優勝を、見せられなくて残念だった」と最後は義理の息子として、クラウンズブルーの空に向かって詫びた。
今年は予選ラウンドで、5年ぶりのAO対決が実現したが、勝って改めて痛感したのは、和合でめいめい5勝を飾る青木とジャンボの強靱な精神力だ。
「ここで何度も勝つというのは尋常ではない」。
知ったからこそ自分もその背中を追いかけたい気持ちでいっぱいだ。
「僕も和合で何度でも勝ちたい。青木さんや、ジャンボさんのように、僕も若手の壁でありたい」。
どの顔でも全力投球でも何よりいちプロゴルファーとして、ツアーを背負っていく者でありたい優作だ。

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