すっぽんVです
先月、5年ぶりの通算15勝目を飾った2日後に、43歳になった。
その21日後に、もう今年の2勝目が来た。
谷原秀人が年の最後に中年の粘り勝ちをした。
「42歳で勝って、43歳でも勝てて、最高のクリスマスと正月が来た」と、真っ赤なジャケット姿でしみじみと喜んだ。
3年ぶり13回目の出場で、やっとつかんだシーズン最後の初タイトルだった。
「まだまだ若い選手に立ち向かえる。これからも、やっていけるぞという自信が出てきた」と、完全復活を宣言した。
専属キャディをつとめる谷口拓也はツアー通算2勝のプロゴルファーだが「俺は何年もかかって2勝。でもあの人はひと月で2勝もしちゃった。すごすぎる」と、唸った。
「試合運びがうますぎる」と、称賛した。
「噛んだら離さない。すっぽんみたい」と、谷口が形容したのは後半、再逆転から一気に攻め込む谷原の戦いぶりだ。
1打リードで出た最終日は、出だしの3パットボギーで単独首位を譲る苦しい展開。
「ショットが今日またイマイチに戻って、パットもラインが読めない。バーディが一つも来ない」と、ひたすら我慢が続いた。
12番では池村にシブいパーパットを決められ「今日は池村の流れ。俺にチャンスはないのかな」。
諦念しかけた次の瞬間、13番で8メートルのフックラインを読み切った。
形勢を立て直すと16番では今度8メートルの急なスライスライン。首位を奪い返して17番では2打目をミスしながら寄せてバーディ。
つかんだ流れは離さなかった。
2差をつけて入った18番パー3は昨年、ワンオン3パットのボギーで1差に敗れた因縁ホール。
「手前からのアプローチが一番、パーが獲りやすいホール。今年は、乗っけないと決めていた。届かないクラブで打った」と、あえて右のラフに逃がした。
「狙わないで、狙い通りに打てた」と、寄せてパーパットで逃げ切りガッツポーズを作った。
先週は、1週休んでぎっくり腰の治療に専念。
「体もスイングも、日に日に改善してすべてがプラスに働いた」と不屈のベテランは、ただで起きない。
17年から3年過ごした欧州ツアーは「砂嵐の中断もある。日本でやっているよりかは、そういう経験値がある」と、確信して戻った今季、2勝でそれを証明した。
歴代賞金王の藤田寛之は40代で12勝。谷原も、同じペースで25勝の永久シードも狙える。
でも、「日本でやるほうが、楽ですけどそういう人生をしたくない」と、頑として43歳の視線は外に向く。
「海外に行って、なかなか成績が出せない苦しさもありますけど、常にうまい選手がいるところで、ちょっとでも上を目指してやりたい」と、熱弁する。
結果を出せずに帰ると、10歳の長男から「なんで駄目だったの」と、責められるそうだ。
「でも勝って帰ると、本当に喜んでくれて。恥ずかしがりながらパパ、かっこいいと。ゴルフにしろ、勉強にしろ、努力しないと100点取れないでしょ、と。そういうのを子どもに伝えられるのは嬉しい」と、目じりを下げる。
土壇場の今季2勝目は、やはり「すっぽんゴルフ」と表していい粘りをみせた41歳の宮里優作とのワン・ツーフィニッシュ。
「来シーズンは20代、30代、40代が混ざり合い、もっといい感じになるんじゃないか」。
その中で、我こそ背中で見せ続けるのはもちろんだ。