だが、肝心の表彰式後の勝利の儀式に片山の姿はすでになかった。
片山が祝福したかったのは、選手というよりキャディさん。
前川哲彦さんは、堀川の所属先「ウェーブエナジー」の社長さん。
大会の地元、兵庫県神戸市の在住で、ABCゴルフ倶楽部も回り慣れているそうだ。
ゴルフへの造詣も深く、プロとの親交も厚い。片山も旧知の一人で優勝の瞬間も、片山は堀川そっちのけで、前川さんと大喜びで握手。
「社長、おめでとうございます!」と満面笑みでお祝いするともう満足して、「ミクムはもういいね」と、アテストから出てくるのを待たずにすたすたと帰っていった。
残ったプロたちで、堀川より先に水浴びしたのも前川さんで、「初めての経験です。冷たかったけど、嬉しかったです」と、とても喜んでいた。
以前にも前川さんと組みながら、堀川が1差の惜敗したのは2018年のダンロップフェニックスだった。
「今週は私の家からも近いですし、今度こそ優勝狙ってまた一緒にやってみようか、と」(前川さん)。
前川さんにとってもある意味、リベンジだったのだ。
「前川社長にはプロになったときからお世話になっていて、僕がシード落ちをした時(2016年)にもここからどういうプランで賞金王までいけるかと一緒に考えて、いろんな項目を作ってもらったり、支えてもらいました」と、今も堀川は感謝する。
「昨年2位の悔しさを晴らすためにも今週は練習ラウンドからマネジメントをしっかりやって、とにかく緊張するショットをしない」などと決めた鉄壁のマネジメントも前川さんと一緒に摺り合わせたものだった。
プレッシャーがかかるホールのティショットで、「少しでも嫌な感じがあったらすべて刻む」と、1Wを持つホールを昨年より半分以下に減らして最終日は10番と15番だけに。
かわりに、得意の3Wで低弾道の「スティンガーショット」を多用して、4日間のフェアウェイキープは2位タイ(64.286%)を記録。
パット時に手が動かしにくくなるイップスの持病がある堀川には、ABCゴルフ倶楽部の高速グリーンも「逆にエラーが出ない」と好都合だった。
段越えの難解なピン位置にも、「安全なところからマネジメントができた。きわどいラインもほぼ外すことがなく読み通りによく入ってくれた」と、それも勝因に。
15番のパー5では、あえて2打目を右バンカーに入れる策でピンそばのバーディ。混戦を抜け出した。
2差で迎えた18番は「何があっても池を越える」と、7Wで打った2打目の奥ラフも2人の作戦どおり。下りで、しかも逆目のアプローチは楽ではなかったが、「いくつかバリエーションがあった」と、自信たっぷりに寄せて1.5メートルのバーディで決着した。
昨年大会2位の悔しさと共に、恩人との4年来のリベンジも晴らせた。
「優勝争いはいつも1日を長く感じるものですが、頼もしいキャディさんのおかげで最後まで戦い抜くことができました」と、改めて感謝。
ちなみに、今週は普段エースキャディの吉田心さんも会場入りし、所属先の社長さんには申し訳なくてさせられないこまごまとした雑務を担当してくれ、ありがとうの気持ちも2倍に。
2人の献身に支えられ、達成できた雪辱の今季2勝目だった。