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日本プロゴルフ選手権大会 2023

神様、お願い。14年前に恵庭で初V「もう一度微笑んで」池田勇太の祈り

13年前に植樹した桜の木は今春もまた、けなげに花吹雪を散らしたそうだ。
当時は、2メートルにも満たなかった苗木はいましっかりと地面に根を張り、そばの優勝記念碑に寄り添う。

どちらも、池田勇太がここ恵庭で行われた2009年の本大会で、プロ初勝利を飾った翌年にコースに寄贈したものだ。



当時のインコースが今年はアウトコースとして使用され、今年のインコースは前回は使われなかった9ホールが採用されるなど、ホール立ては変わっても、「選手を駆り立ててくれる。よほど闘志を燃やさないと、良い結果はもらえない。非常にやり甲斐のあるコース」という印象は、14年後のいまも変わらない。


初日が荒天で中止となり、最終日に1日36ホールで決着するなど、展開も劇的だった。
裏街道のインスタートがまだプレー中に、表彰式が開始したのも語り草。
「恵庭は非常に趣のあるコースなんだけど、あのときは、それを味わう余裕もなかった。毎日ほんとうに凄い雨が続いてね」と、いま思い出しても身震いが出る。


あの1勝を機に、通算21勝を重ねた。

2016年には賞金王にも就いた。
ジャンボ尾崎や青木功らに次ぐ、史上8人目の永久シード(通算25勝以上で戴冠)にもっとも近いひとりと言われた。


常にあれほど自信満々で栄華を極めてきた男が切実な声で「自分の心も、またあの桜みたいに咲くといいけれど・・・」。

14年ぶりに、本大会のコースが恵庭に戻った今年、池田は失意のどん底にいる。


「顎偏位症(がくへんいしょう)」の治療のため、奥歯4本を削る手術に踏み切ったのは今オフ。
かみ合わせの異常から来ていた体中の痛みは治まった。


でも、かみ合わせが変わったことで、今度はゴルフ時の命綱ともいえる感性を失った。

「なんていうか・・・表現が難しいんだけど」と、言葉選びも苦労する。


「かみ合わせとか、歯というのは大事な部分だから。手術で体は凄く楽になったんだけど。こうボールがあって・・・それを打とうとしたときに、上手く力が伝わらない。中でぐちゃぐちゃになって、細かい、繊細な感覚が全然出せない。出そうとすると、そういうのが邪魔をする。神経の伝達が、上手くいかないんだ」と、今季は11戦で予選通過はまだ5回。

開幕戦「東建ホームメイトカップ」の16位が最高で、あとは「BMW 日本ゴルフツアー選手権 森ビルカップ」の31位と、50位以下が3回。


池田 勇太の今季成績


不振のからくりが、ようやく分かったのは前回7月の「セガサミーカップ」だった。
「思うようにできない原因が、やっと理解できたのは良かった」。


だが、同時に絶望が来た。
冬にまた、歯5本を削る手術を予定しており、治療はまだ半ば。
「それをこなさないと俺ダメじゃん、って。理解すればするほど辛いし、あんなに好きだったゴルフが、いま楽しくない・・・」。

日程が空いた先週までの3週間はラウンドも、心配した仲間に誘われて数回行ったくらい。

あとは、ほぼ自宅に籠もりきったという。


今も気持ちは塞ぐ。


だが今週は、14年前の初Vコースで大会だ。
「ここでまた、試合をしていただけるのが嬉しいし、自分が初優勝したコースでなにか気づけることがあったりとか、気づかせてもらうことがあったりとかあるかもしれない」。

希望の光を見つけに来た。


「何か、できることはあるはず」と、大会に備えて自身としては、異例の「クラブ全取っ替え」。いまできる最大限を尽くして臨む。

「1回、・・・1回だけでいいから神様が微笑んでくれないか」。
祈る思いでコースに立つ。


恵庭での初V後に親交を深めた。「コースのみなさんにはずいぶん可愛がってもらってます。だからほんとはね」と、言ってから、長い長い沈黙を挟むと「優勝したい、って、いいたいけどなあ・・・・・・」。
小さく吐きだした。


初日の組み合わせとスタート時間

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16:00~17:45 (CS放送【日テレG+】/18番H中継)

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