実質の“ウィニングパット”は、大混戦を抜け出した前の17番で奥カラーの6メートルを沈めた時に披露してある。
「ガッツポーズも17番でしてますし。この年になって、もういいかなあ、って」と、ベテランの19勝ともなると、喜びより自虐が勝つ。
「また、まさかですよ。JPCでもそうですけど、そこまで勝てると思ってなくて。詰まったので勝てちゃった。詰まると強いみたいです」と、ハタチの長野をプレーオフで制した6月のJPC=「JAPAN PLAYERS CHAMPIONSHIP by サトウ食品」と同様に、伸ばし合いの大混戦なら、勝ち方も心得たもの。
「緊張感は持ってプレーしますけど、昔みたいに震えるだとか、プレッシャーが少ない。そういうのが老いて減ってきているのかな?」と、真顔で言うから面白い。
6月末の「長嶋茂雄INVITATIONALセガサミーカップ」以来の復帰初戦でいきなり今季2勝目。
2ヶ月の長い夏休みは「家族サービスですよ」と、ほとんどの時間を長男のサッカー観戦や、次女の子守に費やし、ときどき「出稼ぎに」と、8月にちょこっと遠征。
イギリスとスコットランドでアジアンツアー2戦に参戦し、「イギリスのコースも今週の輪厚みたいで、状況が近かった」と土産を帰ってすぐ実戦で活かせるのも、ベテランならでは。
今季2勝で賞金10位に浮上し、「そんなに上がったんですか。申し訳ないですね」と、20代の賞金レースに割って入って、ちょこっと恐縮。
初日の荒天で、34ホールを回って「クタクタ」の2日目も、10時間睡眠であっという間に蘇ると3日目の第3ラウンドではレギュラー賞金2位の金谷(かなや)と、Abemaツアーで賞金1位の生源寺(しょうげんじ)とたまたま一緒になり、たちまち生き生き。
2人とも、谷原が地元広島で起ち上げたジュニアスクールの元生徒だそうだ。
「おまえら小学生だったんだよな~って、話してたんですけど、そういう子たちとまだ戦えている」と、自然と喜びがこみ上げてくる。
「僕なんかが逆転できちゃうの?って。もうちょっと、おじさん届かせなかったぞ、というのが欲しかった。勝てて嬉しいけどもうちょっと伸ばせる選手がいてもよかった。みんな練習がまだまだ足りない」と、ちょこっと説教くさく言ってみるけど、反面「今の若い子たちは凄いな」と、日々新鮮。
「ほんと忖度なく、選手ひとりひとり尊敬できる部分があるので、どうやってるのとよく見ますし、若い子たちの入れ替わりが凄いから、自分もここまでやれているのかもしれません」と、44歳の今なお、良いと思えば上下関係なく謙虚に貪欲に、自分のものにしてしまえるのがこの人の強さだ。
「オフはパットの練習はしない。アマチュアの方もそうだと思いますけど、1メートルくらいをやり過ぎると逆にイップスになりますよ。自分も経験があるので、感じたまま。やっても、5~10メートルの上り下りをやるくらい」と、練習ドリルもまたベテランならでは。
「賞金王・・・? 全然ないですね」とガツガツもせず、「目標?ないですね。ゴールがない」とあえて限界を作らず、「ただもっと上手くなりたいだけ」と、終わりのないゴルフ道をひたすら極め続ける。
「よく努力すれば報われるというけれど。それだけでつかめる人は一握り。努力し続けなければ報われない」との名言を残した。
今年2度目のV会見に、強さのヒントが散りばめられた。