改めて証明する5年ぶりの2勝目になった。
日大のひとつ後輩の島野隆史さんが、木下裕太(きのした・ゆうた)の専属キャディを始めて3年目。
タッグ初年度から3年共にシードの確保に奔走してきて思うのは、「この人は、覚悟を決めた時ほど強い」ということ。
開催前の賞金ランクは87位。
「ここでダメならQTだ」と、腹をくくるのにも三好のコースはうってつけ。
「狭くてラフも深くて、難しいので気が締まるというか、シビアに狙っていかなきゃいけない。それで逆にいい集中力を保てる」という木下に、島野さんがダメ押しだ。
「ここでダメならもう終わりですよ」。
幾度も窮地を救ってきた名キャディは、さすが選手の扱いにも慣れている。
「木下さんは、完璧主義者なので。迷いだすとダメなんです」。
昨秋から悩み始めたパターもそう。
「30本くらい作って。家がパターだらけ」と、迷走が続いたが、今週月曜日に島野さんがふとL字タイプを勧めると、「僕の動きに合っている。アドバイスを丸のみして。それがハマった。よく手が動く」と、定着するなりイップス気味も一気に解消。
「遠足前の小学生みたいなワクワク感」で臨んだという最終日最終組では、2人の若手がベテランの好プレーを引き出した。
「金谷くんも星野くんも、日本を飛び出していって、日本で1、2位といっても過言ではない。キャディとも話したのが、逆に相手がすごすぎるから、気が楽じゃないですか、と。完全なる挑戦者の気持ちがいい結果につながった」。
3季連続で、シード争いに奔走していた男が、最強の20代との3者一歩も引かない大接戦の主役になれた。
並んで入った15番では金谷も星野も2オン成功。
「特に星野くんがビタッとえげつない球を打ってきたので、バーディ獲らないと負けだな」と、ひとり3打目勝負で「行くしかない」。
6メートルをねじ込んだ。
魔の16番では今度、金谷のピンそばショットに発奮。木下はその内側にくっつけたが、チャンスを逃してまた発奮。
「狙うなら、17番しかない。本気で獲りに行った」と勝負の1Wでフェアウェイを捉えると、138ヤードの2打目を9アイアンで3メートルのチャンス。
土壇場のバーディで抜け出せた。
「あの組でなかったら、優勝はどうだったか。真っ向勝負で勝てたのは自信になる。初優勝の時より達成感がものすごい。満ち溢れています」。
18番できわどいパーセーブを沈めて逃げ切ると、島野キャディにもらい泣き。
「彼が泣くな、と思ったら自分も泣けてきて…。自分がこの年齢までゴルフができるとは思っていない。奇跡的な感じです」と、うるうるした。
37歳。
今季3度の棄権はすべて4年ほど前に発症した腰痛が原因だ。
今週は練習日に左首を痛めて、最終日も後ろ襟から剥がれかけた湿布がのぞいた。
「まさか勝つと思っていない。油断しました」と、Vシーンの脱帽を一瞬、躊躇したのは、白髪染めを怠った頭頂部がちょっと恥ずかしかったから。
開催前に、大会主催の興和さんが選手みんなに配布してくださったバンテリンの“ふくらはぎサポーター”のおかげで高低差のコースも元気に歩ききることができた。
「本当にありがとうございます」。
32歳の2018年に「マイナビABCチャンピオンシップ」で初優勝と初シードを実現するまで「何をやってもうまくいかない。イライラして、一番心の状態も良くなかった」と散々重ねた苦労も今度は「複数年シードの戦い方がわからなくなった。QT選手として出ていたときは挑戦者の気持ちで楽でしたが、慣れるまでに時間がかかった」と、猶予を与えられると逆に戦いあぐねて迷路に入った。
「試合で稼げず、トレーナーさんを雇ったりとか、歳の体を労わる贅沢とか、後輩キャディの費用とか」。
生活面で追い込まれたときに声をかけてくれた新所属先「光莉リゾート&GOLF」の社長さんにも感謝に堪えない。
最終日にきゅうきょ応援に駆け付けた父親の淳さんに、前立腺がんが見つかったと知ったのはつい3週前だ。
「僕に心配かけちゃいけないと、ずっと黙っていてくれたみたいですが、幸い初期で見つかり、手術はしないで完治できそうと。今日も元気に来てくれましたが、言われたときはぞっとしました。早く孝行しなくちゃいけない。目の前で勝つことができて、本当に良かったです」。
息子としても追い込まれ、夢中でつかんだ5年ぶりの2勝目だった。