「上出来」と自ら言うほど、プレーの内容は最高だった。6バーディ、ノーボギー。微妙な距離のパットを次々と決め、多少のショットのぶれも冴えたアプローチでカバーし、ピンチも切り抜けた。
　そんなゴルフをしていても、初優勝は手に入らなかった。
　上出来なプレーの中で、唯一敗因をあげるとすれば、最終18番パー5だろう。
　それまで「とにかくティショットをフェアウェーに」とこころがけていた手嶋だったが、最終ホール、大事な局面で右ラフへ打ちこんだ。18番は右ドッグレッグホール。「あの位置からだと木が邪魔になった。高く上げるか、左に出すかしかなかった。グリーンが狙えなかった」。イーグル狙いも可能なホールで、レイアップせざるをえなかった。
　しかも、3オンしたピン1,5メートルの距離をはずして、パーでホールアウト。
　「18番はバーディが取れるホール。どうしてもここでとっておかなくてはいけないと思ったのに…」
　同じ所属のミズノの先輩・米山が、最終ホールでバーディを奪い、手嶋を1打上回って3勝目を手にした。

「18番をはずした時点で、やばいと思った。…しょうがない、米山さんが強かった」とあとで手嶋はサバサバと言った。

「初優勝をあげてから米山先輩は、強烈に強くなった、という印象がある。怖いものがなくなった、という感じがする。
　こんなにいいゴルフをしていても勝てない。今季優勝争いをするのはいったい何回目かな…。もっともっと磨かなければならないものがあるのでしょう。
　でも、いつきても（優勝しても）おかしくはない、と自分では思っています。
　米山さんも長い間（12年）勝てなかった。こないだ米山さんに言われたばかりです。
　『多一、オレがあんなに勝てなかったんだから、おまえなんか、まだまだだよ。そんなに簡単に勝たれたら困るよ』って（笑）。
　　勝てなかったけれど、きょうのゴルフは上出来でした。来週以降もまたがんばりたい」

　手嶋は、ホールアウトしてきた米山と固い握手を交わしていた。

• 手嶋 多一