Tournament article
カシオワールドオープン 2000
ジャンボの追撃を振り切ってV
そのことに価値がある」と鈴木亨
あとでその状況をなぞらえて、「ドンドン!!と、足音が聞えてきた」と、鈴木は言った。
その主は、4打差3位からスタートしたジャンボ尾崎。
3番パー4でチップインイーグルを奪ったジャンボは、さらに5番、7番と次々にピンに絡め、前日の予言どおりアウト32でハーフターン。
鈴木も前半、順調にバーディを重ねていたものの、ジャンボの追撃はすさまじく、13 番でこの日5つめのバーディを奪うと、とうとう1打差まで詰め寄られた。
「来るとしたら、(アメリカの)ボブ・メイだと思っていた。ジャンボさんは3日目まで、そんな爆発的なスコアを出していたわけじゃなかったから。ここまでくると、予想していなかったんです」
スタート前からバーディ計算だったという13番パー5。第2打を右バンカーに打ちこんでパーに終わると、「さすがに、このあたりから焦りがきた」と鈴木。胸の鼓動が、だんだん速く、大きく打ち始めた。
「でも、相手も苦しいはず。それよりも、自分が上がりホールでいくつ取れるか」。考え直し、15番でピン奥3メートルのバーディパットを決めた。
このとき、「これがウィニングパットになるだろう」と、鈴木は思ったそうだ。通算 20アンダーが、優勝スコアと予想していたからだ。目標スコアに到達して、鈴木は少し楽観した。
だが、16番パー4。パーパットを打つ前に、隣の17番パー3から、大歓声が聞えてきた。ジャンボが、ティショットをピンそばにつけたのだ。その歓声を聞いてから打った鈴木の1.5メートルのパーパットは、カップ左にわずかにそれた。ボギーだ。
「あのパットは迷って、なんとなく、『ラインより右目に』という感じで打った。打ち間違いと読み間違い。これで、楽に18番が迎えられなくなった、と覚悟した」
再びスコアを通算19アンダーに戻し、17番のティグラウンドに上がると、グリーン上のジャンボが、悠々とバーディパットを決めているのが見えた。
とうとう、ジャンボにつかまった。
「もう、心臓が、バクバクいってた」
17番のティショットは、激しいプレッシャーの中、夢中で打った。
ピンそば2メートル。「このラインへ打てば入る」、そう信じたら今度はうまく手が動いてくれた。
18番のティショットは、前日3日目まで右の斜面を嫌い、左目に打っていた。だが、この日この瞬間だけは、「フェアウェーの1点だけが見えた」。ねらいどおりの球筋で、ど真ん中を捉えることができた。
セカンド地点にいくと、ジャンボがバーディで終わり、インも予言どおりの32。通算 20アンダーでフィニッシュしたのが確認できた。
鈴木の勝利は、バーディが条件となった。
「心臓はバックン、バックン。でも、すごく集中できていた」
第2打は、ピン手前8メートルに。
「とにかく、簡単なウィニングパットで終わってくれ」と寄せにいったイーグルパットは残りわずか数十センチ。その瞬間、鈴木の顔がほころんだ。
ウィニングパットを決めて、2年5か月ぶりのガッツポーズ。
「プレッシャーの中で、こんなにいいプレーができたこと、それが嬉しい」と声を上ずらせた鈴木。「しかも、2位にジャンボさんの名前がある。…この優勝は、そのことに価値がある」と続けると、鈴木の口元は、キリリと引き締まった。