Tournament article
全日空オープン 2002
「あの歓声は僕のものじゃない、それが悔しかった」
ジャンボと1打差で上がってきた18番グリーン。
藤田のアナウンスコールは、勝利を確信し、ジャンボをスタンディングオベーションで迎えるギャラリーの大歓声に、かき消された。
観客には、大きな拍手に何度も手をあげ応えるジャンボの雄姿しか、もう目に入らないようだった。
藤田は、その光景から目をそらすように、バイザーを深くかぶりなおして、顔を隠した。
「この歓声は、自分のものじゃない…そう思ったら、ほんとうに悔しかった」。
この日最終日は、1ストローク差の戦い。
我慢くらべのマッチ戦に、「いつしか、藤田のミスを期待している自分が情けなかった」とジャンボに言わしめたほど、好ゲームを続けてきた藤田だっただけに、無念さは、ひとしおだった。
敗因は、17番パー5の第2打だった。
ジャンボが、左ラフの木のそばに打ち込んだ第2打を、見事にリカバリーしたことで、藤田は勝負に出た。
「ジャンボさんに挑戦するなら、これしかない」と、グリーン手前の左林超えにトライ。
しかし、ボールは見るも無残に、林に消えた。
「これこそ、僕の力のなさ。認めないといけない…」
勝負へのプレッシャーはなかった。
このピンチを迎えてなお、藤田の胸に去来していたものは、「僕のミスで、ゲームをつまらないものに、したくない」という思い。
林から脱出し、右ラフからの4打目は、ピンまで5メートル。パーパットは1メートルオーバーし、「このボギーパットが、今日一番緊張したかもしれない」と振り返る。
「これを入れないと、試合が面白くなくなっちゃう、と思って…」
ホールアウト後、ジャンボが言った。
「藤田が17番で第2打を狙っているのを見て、あれは多分、よほど良い球を打たないと(左林は)超えられない、と感じた。俺も、これまで何度か、あそこから打ったことがあったから。しかし藤田も、俺に勝つには、『ここで勝負しかない』と思ったんだろう。攻めた結果のボギーだから仕方ない。戦う上で、そういう前向きなトライは、絶対に必要だから。
藤田は今日1日、スキのない、非常にいいゴルフをしていたと思うよ…」