Tournament article
マンシングウェアオープンKSBカップ 2002
「すべては運」
2週連続Vなど、はなから頭になかった。
ただ、「先週の優勝を“まぐれ”と言われないためにも」今大会の目標は、「予選通過」。
謙虚な気持ちで、1日1日、地道にスコアを積み重ねようと決め、いつのまにか、2打差の2位まで上昇して迎えた最終日も、その気持ちは変ることはなかった。
それでも、たったひとつだけ、平静ではいられなかったのが、この日最初のバーディを奪ったホール。
それまでの3日間、無欲でやってきたはずなのに、優勝に手が届きそうになると、途端に心がざわめいた。
「欲が出て、ゴルフが乱れた」
案の定、5番パー5では、左にOBを打ってトリプルボギー。
「これじゃ、優勝どころか、上位もない…」
さっきまでの欲望は、一挙にしぼみ、自分を見失ったことを「深く反省した」久保谷は、再び、1打1打に集中し、15番までに、どうにか3打を取り返したのだった。
先週のV争いの疲れは、まだ残っていた。
ドライバーだと、重く感じて、振り切れない。
後半から、1Wは封印して、戦った。
すでにプレーオフ進出を決めていたハミルトン、福澤と2打差で迎えた18番パー5。
エッジまで、残り202ヤードの第2打も、体調がよければ、4番アイアンを握っていたはずだった。
「オーバーでもいい。3番アイアンを短く持って、気力で振り切ろう」その方法が、かえって功を奏した。
ピン手前2.5メートルに2オン。
渾身のイーグルで追いつき、2週連続のプレーオフに持ち込んだ。
「すべては運」と、久保谷は言い切る。
どんなに強者でも、「運」がなければ、勝てないと、久保谷は断定した。
たとえば、18番のイーグル。
たとえば、プレーオフ3ホール目。ハミルトンがたった1メートルのバーディパットを外したこと。
たとえば、プレーオフ4ホール目の、バンカーからの第2打も、「ラッキーだった」と振り返る。
「バンカーだと、フェアウェーからのショットみたいに、風とかライとか気にせず、ただ、クリーンに打つことだけに集中できたから」
ちなみに、久保谷は、このとき、ハミルトンの第2打も、バンカーに入っていたことを、知らなかった。しかも、ボールは、バンカーのヘリと、最悪のライ…。
「それを知っていたら、ボクは、第2打をスプーンで、攻めていなかったと思う。これも、運良く知らずにいられたことで打てた、ショットだったんです」
最後のほうは疲れきって、腹痛もあり(もう、どっちでもいいから、早く決めちゃって〜)と、内心、叫びながらも、掴み取った勝利だった。
「すぐ翌週に、また勝てるなんて、こんな運のいい男はいないよね」と話す口調が、少しだけ自嘲気味だった。
97年の初優勝から、「厄払いが必要」とまで思いつめた5年間。勝てなかった日々も、1日も練習を怠らなかった男は、何度勝ってもけして奢ることはなく、やはり、次週からの目標は変らず謙虚に「まずは、予選通過」なのだそうだ。