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日本プロゴルフ選手権大会 2003

『思わず、やっちゃった(笑)』16番でクラブミスもありながら、片山晋呉はプレー中にライバルたちにV宣言

集中しきっていた。1打差で迎えた16番パー4。残り100ヤードの第2打は、「アプローチウェッジでピッタリの距離」。しかし、自信満々で打ったつもりの球は、思ったより10ヤード飛んで、ピン右奥7メートルだ。「おかしい・・・そんなに俺、力が入っているのかな?」首をかしげながらアイアンの刻印を見ると『PW』の文字が飛び込んできて、思わず、キャディと顔を見合わせた。意図していたものより、1番手大きいアイアンで打っていた。間違ってクラブを握ったことさえ気がつかないほど、そのとき、片山はゾーンに入っていたのだ。


「何やってんだ俺は・・・」

思いがけず、難しいラインのパットが残ってしまったことにかなりのショックを受けたが、バッグからピッチングウェッジを引き抜いたのは他でもない、片山自身だった。“ボス”のミスを事前に防ぐことができなかったキャディにも責任の一端はあるのかもしれないが、「お互いのミスということにしよう」。カリカリせず、片山は次の1打に集中した。そのイージーミスが、かえって、それまで入れ込んでいた片山の気持ちを、適度にクールダウンさせてくれた。「3パットの可能性もある」警戒して打ったパッティングは、ど真ん中からカップインした。最大のピンチがバーディだ。右手のこぶしを上下左右に何度も振って片山は喜びを表した。「昨日の18番、イーグルのシーンがテレビに映らなかった分、今日はいっぱい見せておこうと思ってね(笑)」

一度は諦めた勝負だった。苦しかったフロント9。「とてもよい感じで打っているのにチャンスパットが決められない。ちょっとずつズレて、どんどん悪い流れになっていた」。

重苦しい空気に「良くても2位。もう勝てない」と弱音を吐いた片山に、再び流れがやって来たのは9番パー4だ。3メートルのバーディをモノにしたときひらめいた。「何も考えないで、見たまま打てばいい」。

首位スタートだった鈴木亨は、すでに追いつけないくらいずっと前を走っていると思っていた。だが、流れを取り戻したそのバーディで、鈴木に1打差まで詰め寄ったことを知るや、「いける・・・」。途端に息を吹き返すと10番で1メートル、11番で3メートル。次々とチャンスを沈めて、リーダーボードを駆け上がる。
12番パー3で4連続目となる6メートルのバーディパットを沈めると、思わず後ろを振り返り、「どうだ」とばかりにガッツポーズを振り上げた。「思わずやっちゃった(笑)」。ティグラウンドで、片山のホールアウトを待っていたホと鈴木、ライバルたちに向かって「俺が勝つ」のV宣言だ。

優勝を決めた18番ホールは、ドライバーで338ヤード飛んでいた。残り230ヤードの第2打は、5アイアンでピン奥6メートルにつけてみせた。4年前から取り組んできたハードトレーニング、「世界で戦える体つくり」の成果は、一目瞭然だった。週に2回の日課はスィングに悪い影響を与えることも承知の上で今週も、欠かさなかった。昨年よりさらに伸びた飛距離とパワーで他をねじ伏せて、念願のプロ日本一にのしあがった。

優勝インタビューで片山は、初優勝だったサンコー・グランドサマー(98年)以来の涙を見せた。「去年はほんとうに悔しい思いをしたから・・・」第一声を発すると同時に、こみあげてくる思いに、顔がゆがむ。たちまち、ギャラリースタンドから声援が飛んだ。

「泣くな!片山!」

その声に気を取り直し、懸命にいつもの笑顔を作って言葉をしぼりだした。

「今年こそ、ほんとうにほんとうに、勝ちたかったんです。逆転優勝でそれが叶えられただなんて、久しぶりに感激です・・・!」

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