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東建ホームメイトカップ 2007

上田諭尉が、ツアー初優勝で2007年のチャンピオン第1号に!!

2打差で迎えた16番で3メートルのパーセーブ。安心したのもつかの間だった。試練は最後の最後にやってきた。

17番パー5で、ティショットを大きく左に曲げた。この週、好調のパットでどうにかしのいだものの、最終18番で今度は右のバンカーだ。

「芯を食ったし、会心の当たりだと。自分でも、思いがけないミスショット」。
極度の緊張状態にもはや、体の動きが完全に止まっていた。

残り170ヤードの第2打は、本来なら6か7番アイアンを握る距離。
しかし前方には木。グリーン手前には池。
「左から思い切りスライスをかけないと、グリーンには届かない」。
少しでもショートすれば、転がり落ちてしまうだろう。

ひとつ前の組のドンファンが、17番でバーディを奪って差はひとつ。
「プレーオフでもいい」と、握り締めた5番アイアン。

最後の最後に、力を振り絞った。
思い切りカット打ちされたボールは、左から右へ。大きく弧を描いてグリーンをみごとに捉えた。

8メートルのバーディパットを、1メートルに寄せた。
渾身のパーセーブでガッツポーズ。
その瞬間も、しばらく表情は強張ったままだった。

「普段のアニキは、見たまんまのお調子者」とは、この週バッグを担いだ弟の崇宏さん。
いたずら好きで、やんちゃ坊主のような笑顔が消えたのは、3打差の首位で迎えた最終日。
すでに前夜から、激しいプレッシャーに襲われていた。

「手はブルブル、足はフラフラ、心臓ドキドキ・・・」。

両親が、ここ東建多度カントリークラブ・名古屋のメンバー。
幼いころから、慣れ親しんできたコースでもある。
しかしそんな地の利も、ほとんど意味がなく思えるほど体が震えていた。

この日、正午すぎに三重県北部を震源地に起きた地震。
ギャラリーのみなさんが、思わずよろけたほどの大きな揺れも、感じる余裕さえ持てなかった。
初優勝を目前にして、自分らしさを失った。

昨年、ドライビングディスタンスで9位につけた自慢の飛距離も、すっかりと陰を潜めた。
「曲げたくない」と、思うほどに暴れるティショット。
そのたびに、ロープの外から見守る母・悦代さんのへの字口が目に入る。
「…おかんの笑顔も引きつっていた」。
開催コースにほど近い、岐阜県の大垣市出身。
駆けつけた大勢の地元ファンを前に「下手なゴルフをしてしまった」と悔やむ。

それでも、度重なるピンチをしぶとくしのいだ。
どんなに苦しい展開も、みすみす負けるわけにはいかなかった。
男の責任だけは、忘れなかった。
昨年5月に結婚し、4年ぶりのシード復活を果たして迎えた今シーズン。
妻・愛さんと、長男・廉(れん)君に誓った。
「今年は、絶対に勝つよ」。
家族との約束を、さっそくこの開幕戦で果たしたら、次はファンとの約束を果たす番だ。

目指す2勝目こそ、持ち前の豪快なゴルフを見せたい。
「今回、プレッシャーを体験できたからもう大丈夫」。今度こそきっと、自分らしいプレーも出来るはずだ。
「ゴルフの魅力は、やっぱり飛距離。次は、誰にもまねできないゴルフで勝つ!」。
それでこそ、男じゃないか。
  • 大会会長の東建コーポレーション㈱代表取締役社長・左右田鑑穂氏より受けた「誰しも憧れる開幕戦の優勝カップ。最高ですね!」(上田)
  • 家族との約束を果たしたツアー初優勝!

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