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長嶋茂雄 INVITATIONAL セガサミーカップゴルフトーナメント 2009

藤田寛之がツアー通算7勝目

憧れのミスターから受けた優勝トロフィーに感激・・・!!
震える手で“ミスター”からトロフィーを受け取った。小4から中3までの野球少年時代、好んで被っていたのはもちろん、読売ジャイアンツのキャップだ。

師匠の芹澤信雄が結成した野球チーム「ノビーズヤンキース」のエース(?)はグリーンサイドでその瞬間を見守っていた大会名誉会長の長嶋茂雄氏に、「ナイスバーディ!」と声をかけられ硬直した。直立不動でその手を握り返して、「18番のパッティングよりも緊張します」と、頬を染めた。

分刻みでめまぐるしく順位が変わる大混戦に、攻めるべきか守るべきか。気持ちは最後まで揺らいでいた。
首位を捉えた同組の宮本勝昌に、「自分も絶対について行こう」と決めたフロントナイン。
しかし徐々に崩れた宮本と入れ替わり、ついに自分が首位に立ったバックナイン。

井戸木と並んで迎えた最終18番パー5は、しかし3打目を打つ直前に、井戸木が16番でボギーで一歩後退したことを知る。

「パーでもチャンスがある」と一瞬、守る気持ちになった。
だがピン手前2.5メートルにつけて上がったグリーン上で、井戸木が17番でバーディを奪い返したと分かって今度は慌てた。
また宮本も、バンカーからピンそばに寄せてバーディチャンスにつけていた。
藤田にとって、「最もプレーオフを避けたい相手」が、弟弟子の宮本だった。
永遠のライバルであり、お互いに一番認めている相手でもある。
「どっちかが負けるという戦いで、他の人より絶対に負けたくないという気持ちは強いし、でも負けても悔しくないし・・・」。
そんな複雑な心境で挑む“一騎打ち”は、絶対に避けたかった。

「だから、自分がこれを入れたら話しは早い」。そう気持ちに決着をつけた途端に手が震えていた。

激戦を制してミスターに、「藤田選手の素晴らしいバーディパットには、本当に興奮しました」と言わしめた男はしかし、「あんなところで手が震えているようじゃ・・・」と、自分にダメ出し。
このツアー通算7勝目で、賞金ランキングは片山晋呉についで2位に浮上した(海外獲得賞金含む)。初の賞金王獲りを宣言してもおかしくない位置にも、「僕はそんな器じゃない」と、いっこうに興味を示さない。
「だってそうでしょう? 僕は何の特徴もない人間で。賞金王になるには何かが足りない」と、意固地なまでに首を振る。

いくつ勝ち星を重ねても、「もっとやることがあるだろう」と父親に厳しく躾けられた九州男児はもはや、自らを追い込むのがクセになっている。
加えて、師匠の芹澤も呆れるほどの完璧主義者は理想のスイングを追い求め、6月に40歳を迎えてなお迷いの中にいる。この人が、自信満々で臨んだ試合は皆無といってよく、口から出るのはいつも自己批判ばかりだ。

「過去のイメージは、当てにならない。常に新しいものに挑戦していたい」と、進化を求め続ける男はこの週も、過去4回中予選通過はわずか1回と、相性の悪さを自認するコースであえて、荒療治に踏み切った。
持ち球のフェードを捨てて、ドロー一辺倒で行くと決め、その違和感に苦しみ、原因不明のシャンクを2発も出し、もがきのたうちながらも掴み取った勝利だ。
「困難に立ち向かうのが好きなもんで・・・」と、照れ笑いで言うそのココロは厳しい環境の中にしか、成長の鍵はないと知っているから。

2年前にはストレス性の虫垂炎を発症し、一時は体重が75キロから63キロまで落ちた。昨年6月には、思い切って手術に踏み切った。
このオフは「遼くんのような、パワーゴルフに少しでも近づきたい」と、所属コースの倉庫の一部を改造。専用ルームを作り、バーベルやダンベルなどを用いたトレーニングをスタート。身長168センチの体をいじめ抜き、ひと回り大きくなった胸板は開幕直前、メーカーにウェアを採寸しなおしてもらったほどだ。おかげで、飛距離も少し伸びた。

どんなに自分を追い込んでも「まだ足りない」と貪欲に、「コツコツやるのが自分のスタイル」と地道に歩みを続ける男の原動力は、自分を応援してくれる人たちの存在という。
優勝経験のある次週のサン・クロレラ クラシックも、やはり北海道(小樽CC)での開催だ。
「もう今週で運を使い果たしましたので・・・」と、一度はやんわりと、道内での2週連続Vの可能性を否定したが、「そんなことはない!」との地元ファンの励ましの声を聞くや、即座に言い直した。
「来週も、みなさんの期待に応えたいと思います」。
他人に優しく、自らに厳しい男は「こんな自分にも、応援してくれる人がいる」と分かれば絶対に、無視出来ない。体を壊してまでも、理想のゴルフを追い続けるのも「支えてくれる人たちに、喜んでもらうため」に他ならないからだ。
  • 2人の愛弟子の為に応援に駆けつけた師匠の芹澤には「お前それはガッツポーズじゃなくてパンチだ」とからかわれるが、これがいつもの藤田の勝利のポーズ!!
  • 専属キャディの梅原敦さんと慎重に読み切った最後のバーディパットは緊張で手が震えていた
  • 大会にご協力くださったたくさんのボランティアのみなさんにも感謝の言葉を・・・!!
  • 梅原さんとは、もう数年来のつきあい。これからも、何度も一緒に美酒を味わっていく。大切な仲間の一人!!

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