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キヤノンオープン 2009

久保谷健一は「優勝の文字よりも、先に出てくるのは良いプレー」

2002年にツアー通算4勝目をあげてから、目立った成績はないが、上位発進したときは、めったに大叩きすることもなかった。それが自慢だったのだが、今年は必ずしもそういう傾向になくて、自信を失いかけていた。

特に、石川遼と優勝争いを繰り広げた9月のフジサンケイクラシック。2日目に66をマークして、2打差の2位で迎えた最終日になんと78を打ち、10位タイに後退した。
その苦い経験から今週は「先に取った貯金を絶対に無駄にしない」。

台風の影響で、2日目に行われた第1ラウンドで得たリードを守ることが、この日の第2ラウンドの最低条件だった。

「流れが悪くなったら、近頃じゃどうしたらいいのか。対処できなくなっちゃうから。

だから今日は、おとなしくスコアを落とさないゴルフをしようと思っていたんだけれど・・・」。

思いがけず、前半4つのバーディが来て、この2日間で計11アンダーをマークしながら「ある意味ラッキーでした」と、ある種後ろ向きなコメントは相変わらず。

今季2度目の最終日最終組にも、「優勝の文字よりも、先に出てくるのは良いプレー」と、記録より記憶に残るゴルフを目指すのは、「優勝争いの中で、良いプレーが出来たということは、プロにとって何よりの喜び」との考えからだ。

過去4勝の経験はあるものの、その中でも「4日間、満足出来たラウンドはひとつもない」と、言い張る。
そのどれも、「最終日のゴルフをまったく覚えていない」とも。
それは、ただ漫然と勝ってしまったということを意味しており、「棚ぼたの優勝は美味しいかもしれないが、それよりも大事なことは良いプレーをして勝つこと。そのために、明日は自分の中で1ホール1ホールを解説しながら回ります」。

理想は最後の18ホールを、あとですべて語れるくらい中身の濃いゴルフだ。
「明日は何年たっても忘れない、そういうプレーがしたい」。
初日の中止で競技は54ホールに短縮されたが、そういう意味では「明日は長い1日になりそうです」と、覚悟を決めた。

地元・神奈川県出身の久保谷が、現在住まいを構える都内・目黒から、開催コースのここ戸塚カントリー倶楽部までは車で30分ほど。
それにもかかわらず、今週はあえて横浜の関内に宿を取ったことを、妻・久美子さんが咎めたのは、前日の会見で久保谷が「奥さんに怪しまれたみたいで」と言ったがそうではない。

夫の体を気遣ってのことだった。
「去年は“365日”を久々に達成できた」と、1日も晩酌を欠かさなかったことを、まるで大事な記録か何かのように語る困った夫・・・。

「家から通ったら1週間だけでもお酒が断てると思ったんです。この先、試合が続くし、せめて今週だけでも、体を休めて欲しかった。だから、自宅通勤して欲しかったのに・・・」とこの日、子供たちを連れて応援にかけつけた久美子さんは、ちょっぴり悲しそうにそう言った。

しかし、そんな妻の心配をよそに、夫はこう言い張るのだ。
「僕は、呑まずにいたほうが、体がおかしくなっちゃうんです」。

昨年、飲み仲間の矢野東が禁酒を始めたことに改めて触れて、「まじめに節制している人は、酒ばっかり食らってる人間には負けたくないと思っていると思う。でもそこだけは、許してもらいたい。僕の場合はお酒がゴルフに生きている」と、大マジメに持論をぶった。

だから、最終日を前に2打差の単独首位で迎えたこの晩も、もちろん仲間と繰り出す。
優勝争いの前夜に断酒を試みたが逆に結果が出なかったという平塚哲二の例を励みに、「僕も、お酒の力に頼ろうと思います」と、今夜はひとまず気持ちを紛らわせて眠りにつく。

それで、みごと7年ぶりのツアー通算5勝目を飾ることが出来れば「奥さんに叱られることもないでしょう」。
「・・・ええ、まあそうですね。それで結果が出たというなら、よしとします」と久美子さんは、もう仕方ないわといったふうに小さく微笑んだ。

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