Tournament article
キヤノンオープン 2009
池田勇太が逆転の今季3勝目
その一部始終を同じ最終組で見届けた池田勇太は、「ダボのあとにイーグルを獲って勝つなんて。遼は、それで気持ちを高ぶらせているのかもしれないが、俺には考えもつかないこと」と、すぐその翌週に、危なげないゴルフで今季3勝目を挙げた。
3打差の3位タイからスタートした最終日は2番からの3連続バーディで首位を捉えると、前半6つのバーディで一気に突き放した。
ティショットの不振を補ってあまりあるアイアンショットの切れ味は、後半さらに2つのバーディを奪ってボギーなしの64。
2日目の第1ラウンドに続く、この週2度目のコースレコードタイをマークして、「最終日にふさわしいゴルフが出来た」と、本人も納得の逆転Vだ。
石川は、大歓声に応えて爽やかに、ガッツポーズで締めくくった。
池田は、最後までニコリともせず、むしろ口をつんと尖らせたままだった。
しかも、タップインのウィニングパットも淡々と、誰よりも先に打とうとして同組の山下和宏に「おい待てよ、最後に打てよ」と、止められたほど。
「だってその時点では、まだ勝てるとは思ってなかったんだもん」と、言い訳した。
最終組のひとつ前で回っていた池田は、ハーフターンや16番で、タイミングよくスコアボードを確認することが出来ず、自分がいったい何打差つけているのかもよく分かっていなかった。
そのせいで、攻めあぐねる場面もあり、最終ホールを残して3打差は、「あとで考えたら後ろの人が、ティショットを直接入れないと俺に追いつけなかったんだな、と」。
スコアカードを提出したときにようやく気づいたが、後の祭りだ。
18歳のような、派手なガッツポーズもなく、颯爽といつもの赤パンツで登場した石川に対し、この日池田が選んだのは、むらさき色の3タックのダボダボパンツ。
「パープルは大好き。キレイで高貴なイメージと、ヒールでダークなイメージ。両極端に転がる色だから」というユニークな理由から選んだ勝負服は、表彰式で着せかけられた、真っ白なチャンピオンブレザーに思いのほか美しく映えた。
石川遼が、2人いても面白くない。両極端の個性がぶつかり合うから、勝負はますますドラマチックになる。それが分かっているからこそあえて、自らヒール役をかって出てしまうようなサービス精神が池田にはある。
その一方で、普段はひた隠している純な心を、無防備に垣間見せることがある。
前週の優勝会見で石川が、「今でも池田さんは、尊敬する先輩」と褒めちぎっていたことを伝え聞くなり、たちまち口ごもり「ほんとかよ。それは・・・いやあ、ありがたいです」と急に敬語でかすかに頬を染め、「そのうち、遼に見捨てられないように頑張ります」と、冗談交じりに照れ隠す。
さらに、「遼は思い切りもいいし、上手いし凄く飛ぶ。18歳で、すでに今年4勝もしていることからも、良い選手だと認めざるをえない。年齢に関係なく、一人の選手として良きライバルだと思ってる」と、褒め返しもぬかりない。
その石川が今週は、日本を飛び出し米国と国際選抜の「プレジデンツカップ」の世界舞台で奮闘していることを励みに、「遼もアメリカで頑張ってるし、俺も負けじと頑張ろうと思った」と、池田は言った。
「その思いが今週の結果につながった」と頷いた。
主催者のご厚意により、優勝賞金は3000万円を受け取ったが、大会初日は台風18号の影響であいにくの中止となり、54ホールの短縮競技は、規定により加算賞金は2250万円。
今回は、賞金ランキングで石川を抜くことは出来なかったが、獲得賞金は自身初の1億円を超えて、石川の留守の間に約200万円差まで詰め寄った。
「あと少し、手を伸ばせば遼を捕まえられるところまで来た」と、ニヤリと笑った。
若きライバル同士は、どちらが頂点にのぼりつめても史上最年少の賞金王誕生となる。
賞金レースは、今季あと8試合を残して戦いの構図が次第にくっきりとしはじめて、「18歳に負けないように、23歳も頑張りますよ」と、腕をまくった。
「次の4勝目を頭に入れながら、賞金は1億5000万円を目安に頑張ろうかな」と、いつものぶっきらぼうな言葉の中に、たぎる闘志を滲ませた。