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The Championship by LEXUS 2010
上田諭尉(ゆい)が首位タイに
「今日だけ、今日だけ」。
声の主は、振り向かなくても分かっている。谷口徹だ。
「またそんなひどいことを言う…。いつもああなんです。谷口さんは、口が悪い」。
しかし、秘めた優しさも知っている。
「だから誤解されやすいけど、本当はみなさんが思ってるような人じゃない」。
歯に衣着せぬ物言いも、ちょっぴり手荒い励ましだ。
「ほんとうに、後輩思いの良い人なんです」。
それを、痛感したのはこのオフだった。
いつもトレーニングにこそ時間を割くが、ほとんとクラブも握らず、もっぱら趣味の釣りをして過ごす上田を、谷口が恒例の宮崎合宿に誘ってくれたのは2月もなかば。
ともに過ごした2週間は、谷口の強烈なプロ根性を改めて思い知るには十分だった。
早朝は、誰よりも早起きしてトレーニングで汗を流し、いざコースではぎゃふんと言わされた。
「練習ラウンドから、あれだけ試合の雰囲気を出していける人はまあ、いない」。
一流は、普段の取り組み方からして違う、と感心させられた。
この日初日も、自分は6アンダーこそマークしたが、「でも、これが谷口さんだったら…」と思わずにはいられない。
それは最終18番だ。
ティショットはフェアウェーど真ん中を捉えながら、第2打を大きく曲げて、隣の9番グリーン方向へ打ち込んだ。木が前方に立ちふさがった状況は、キャディの柏木一了さんのアドバイスを信じて、林越えの高いロブショットでどうにかパーで切り抜けることが出来たが、「谷口さんなら、あそこからでもバーディを取っていたと思う」。
実際に、この日は前半に4オーバーを打ちながら、後半4アンダーでイーブンパーまで盛り返してきた谷口。
「こんな難しいコースで最初に4つも落としたら、上がって来るのは不可能に近い。さすがです」。
尊敬する先輩はラウンド中は、たとえプライベートであっても鬼の形相だが、ひとたびコースを下りれば、率先して若手を食事に誘い、ご馳走してくれる。
報道陣の取材に応える上田に痺れを切らした谷口が、再び遠くのほうで咆えていた。
両指で小さな四角を作って、「そんなに喋っても、どうせお前の記事はこんなけしか載らないんだから。早く来い!」。
この日好発進の後輩と、一緒に昼食を食べようと、イライラしながら待っている。
そんな先輩に苦笑いで「ああやって暴言は吐くけれど、本当は面倒見の良い人なんです」。
そして、誰よりも後輩の活躍を発奮材料にするのが谷口でもある。
2日目以降は、猛然と追いかけてくるだろう。
「見習いたい。負けられない」。
その存在を背中にひしひしと感じながら、このまま最終日まで突っ走りたい。