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The Championship by LEXUS 2010

兼本貴司が大逆転のツアー通算2勝目

「僕はガッツポーズはしない」と話していたが、「あの展開では、出るでしょう」。衝撃のクライマックスに、本人も思わず出てしまったど派手なパフォーマンスに照れ笑い
ジャパンゴルフツアーはいまや若い力が主流になりつつあるが、不惑を目前にした選手にだって奇跡を起こせる。いくつになっても輝ける。「人生、諦めちゃいかんのだな」との本人のつぶやきが、真に迫った逆転劇。「僕は遅咲き。若けりゃいいってもんじゃない。地道にやれば、40になっても活躍出来る」と改めて確信できた、ツアー通算2勝目だった。

最終日は17年のプロ人生で、初めての首位発進。しかも2打のリードにかえって我を失った。極度の緊張に「もう、アップアップで。頭が白くなりかけた」。体はこわばり、ショットは「どこに飛んでいくかも分からない」。
大利根の森をフラフラとさまよい歩き、出だしの連続ボギーを引き金に、ズルズルと後退した。

前日3日目に、自ら予測した勝率は「25%」。もともと低く見積もった確率は11番でボギーを打って、井上信に6打差をつけられた時点で「10%」と、一度はほとんど地に落ちた。落胆に「体もドっと、重くなった」。
しかしそれとは裏腹に、スタートから一転、追う立場に変わったことで、闘いのスイッチが切り替わった。持ち前の勝負魂が呼び覚まされた。次の12番で、下りは6メートルのスライスラインをねじ込んで、たちまちゾーンに入った。

「トップしか見えない。ピンしか見えなくなった」と、13番では残り224ヤードの第2打を、4番アイアンで4メートルのイーグルチャンス。
ねじ込んだ瞬間に、「勝率は、40%まで上がった」。
さらに14番で、奧から1メートルを沈めると、「50%」に跳ね上がり、16番からの連続バーディで、「60%」まで上昇し、1ビハインドで迎えた最終18番は、もはや勝つことしか考えなかった。

フェアウェイから残り239ヤードの第2打で、3番アイアンを握った瞬間に筋書きは決まっていた。本人以外は、誰も予測もつかないクライマックス。バーディ締めのプレーオフなど生ぬるい。
「僕は賭けが出来る立場。イーグルで勝つ」と、ピン右6メートルに乗せた。
40センチは左に曲がるラインを読み切って、ボールがカップに消えた瞬間は、「自分に感動して身震いした」と、普段はクールな男もすっかり我を忘れて右拳を振り回していた。

最終ホールのイーグルで逆転Vを飾ったのは、99年のJGTO発足後なら、兼本が史上初。また、最終日のバックナインで2イーグル以上を奪っての優勝は史上2人目。さらに最終日のバックナインで29をマークして勝った選手は記録が残る85年以降なら、史上5人目。

最終ホールでの大どんでん返しは希に見る奇跡の逆転劇に、スタート前に聞いたあの人の言葉がよみがえる。シード権を失った2006年から教えを乞う中嶋常幸は、「1から10まで。まるで目次を聞くように、ゴルフのなんたるかを教えてくださった」。

その恩人がこの日のスタート前に、偶然に顔を合わせた練習場で「運があれば勝てる」と言った。その真意がいま、胸に迫る。
確かに同じ最終組の井上は、この日完璧なゴルフをしていたが、「運は、最後に俺のほうに回ってきたんだ」と、実感出来る。
そしてあの人の生き様も。
「中嶋さんは、たとえ何位からスタートしても最後まで諦めない」。
間近で見てきた憧れの人の不屈の精神が、いつの間にか自分の心の「引き出し」にも大切にしまわれてあったことを、思い知った。

今年12月の40歳の誕生日を目前に、昨年の三菱ダイヤモンドカップに続く2年連続のツアー通算2勝目は、これまた難攻不落の大洗に続いて茨城県で掴んだ栄冠だ。

大洗と同様に、会場の大利根カントリークラブは「ラフからなら、さあどうぞ、苦しんでくださいというセッティング。でもフェアウェイからなら、必ずご褒美がもらえる。プロをやってて、これほど面白いというのもないくらい」。そんなゴルフの神髄を教えてくれるコースで「渾身の力を振り絞って勝った。自分と家族に感謝の1勝です」。

また、今年は延べ1000人の地元ボランティアのみなさんが、大会に協力してくださったと聞く。開催コースのある坂東市のみなさんは会場内の食材を、すべて地産地消でもてなしてくださったという。
毎日、コースまでの行き帰りに感じた。
「茨城の人は、みなさん道を譲ってくださる。今日も最後まで応援してくださって。温かい方ばっかりです」。

もはや出身の広島から「移住したい」というほど思い入れの強い地は、トヨタレンタカーで借りてきた「ヴィッツ」で通った1週間。コンパクトカーを返却するかわりに手に入れたのは「レクサスRX450h」。高級ハイブリッド車の副賞は、どんなに不利な戦況にも最後まで諦めなかった、何よりのご褒美だ。
「よくやった、と自分を褒めたい。有り難く乗らせていただきます」。
憧れの新車のハンドルを握る日が、今から待ち遠しい。
  • 「マコは完璧なゴルフをしたのに僕は水に濡れたり、泥にまみれたりのゴルフだった」と、山あり谷ありのプレーを敗者に詫びた。
  • 仲間の丸山大輔や、甲斐慎太郎らの手荒い祝福に悲鳴をあげてにげまどった兼本アニキ
  • 延べ1000人を超える地元ボランティアのみなさんにも溢れんばかりの感謝の気持ちを
  • 大会主催のトヨタ自動車(株)の豊田章男・代表取締役社長(右)も感心された逆転V。スリリングな試合展開のご褒美は最高級のハイブリッド車!!

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