記事
カシオワールドオープン 2009
横田真一がシード権を保持
しかしそれから30分経っても、40分経っても、横田には安心出来ない。
周囲にどれだけ「もう大丈夫でしょう」と言われても、「万一ということがある」と、順位ボードの前から離れない。
気になっていたのは、賞金ランキングは75位につけていた清田太一郎の動向だった。
すでに通算8アンダーは24位でホールアウトしていた清田と、タイスコアで並ぶ選手が減れば減るほど清田の賞金の取り分は多くなり、なおかつ順位が上がれば上がるほど、横田が逆転される可能性が高くなるからだ。
会場内の速報コンピューターと延々とにらめっこしていた横田の表情がふいに輝いたのは約1時間後。
「これで決まったかな」。
宮里優作が、最終18番でなんとアルバトロスを奪って、一気に15位タイに浮上。そのために、清田の順位がひとつ下がったからだ。
思わず胸をなで下ろしてつぶやく。
薄氷を踏む思いは、すでに経験済みだった。
12年間守ってきたシード権を失ったのは選手会長を務めて2年目の2006年。
おまけに、翌年の出場権をかけた予選会「ファイナルQT」にも失敗し、ドン底まで落ちた。
あれから2年をかけて、今年シード復活したばかりで早くも訪れた危機にも「前に一度やっているから。ダメならQTに行けばいいし、それでもダメならまたチャレンジ(トーナメント)で頑張ればいい」。
ここ数試合はそう繰り返していたものだが、それも強がりだった。
「そう言い聞かせてはいたけれど」。
やっぱりプレー中は、そればかりがちらついた。そのたびに、子供の顔を浮かべてリラックスしようと試みたり、またはあえて初日から入れ込んで、攻めの姿勢で臨んでみたり…。
「いろんなバージョンを試しながら戦った」という。
そして迎えた今大会直前は、メンタル関連の本ばかりを読みあさった。
「高橋尚子さんの本の中に、景色を楽しめばいいとあって」。
ラウンド中に、コースの紅葉を眺めてみたりしたが、まったく気持ちは楽にはならなかった。
もっとも山場の予選2日目は、あがりの8番で「枕木に当たってOB。落ちると思った…」。
しかしすぐ9番でバーディを奪い、42位はヒヤヒヤの決勝ラウンド進出。
今週は体調を気遣っていっさい酒をたったが「居酒屋に行くと拷問。飲めないからずっとファミレス。毎日厳しかった」。
最終日の前夜はほとんど眠れず、早朝3時に目が覚めたという。
シード権のプレッシャーは特にグリーン上で顕著で、「腕が上がっていない。3センチくらいしか。ボールの回転がめちゃくちゃ悪かった。でもところどころは開き直って男らしく…もうぼろぼろです」。
それほどの思いをして手にした2年連続のシード権だけに、「本当に嬉しい」と、その瞬間は思わず全身から力が抜けた。
そして「来年もよろしくお願いします」。頭を下げた2010年こそ、こんな経験はもう、二度とやめにしたい。