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日本オープンゴルフ選手権 2010

2010年度のゴルファー日本一は韓国の金庚泰

1.5メートルのウィニングパットを決めて控えめに握ったガッツポーズ
ゴルフの実力はもちろんその人柄も、日本一の称号にふさわしい24歳が、第75代の座についた。

今年の舞台となった、愛知カンツリー倶楽部はフェアウェイも、あってないに等しい。難コースでコース新の64。しかも1打差で迎えた最終18番で、この日もっとも重圧のかかった1.5メートルのパーパットを沈め、ボギーなしの逆転Vは、その完璧な内容も、「キョンテなら、当然の結果」と頷いたのは、同じ韓国出身のハン・リーだけではない。

「彼は人としても、プレーヤーとしても素晴らしい」との言葉もまた然り。2006年に、日本アマ連覇の実力者は今大会はプロ転向後の初出場で、いきなり栄冠を手にした。日本アマと、日本オープンの2冠達成は、大会の長い歴史の中にあってなお、赤星六郎と中嶋常幸につぐ3人目の快挙達成だ。

また、1972年の韓長相(ハンジャンサン)氏以来、38年ぶり2人目の韓国人チャンピオンは、来日からこの4年間で、一生懸命に覚えた日本語で、たどたどしくも、心のこもった優勝スピーチを披露した。

その中で語ったことのひとつが、この日は2人1組の2サムプレーで回った石川遼への感謝の気持ちだった。
「今日は15番ホールから、遼くんが“チャンスがある”と。応援してくれたから頑張れた。彼は本当にナイスガイでグッドフレンズ」。

その石川を、賞金ランクで抜き返した。この今季2勝目、ツアーは通算2勝目で、3週ぶりに1位に返り咲いてなお「遼くんのほうがレベルは上です」と、言って金はきかない。

9月の日韓戦は、最終日の直接対決で、石川に7打差をつけて圧勝した。そのころからとみに周囲から、“遼キラー”とか“遼くんのライバル”などと称されるようになったが「違いますよ」と、本人は首を振る。

「遼くんは日本ツアーの賞金王ですし、プレースタイルも違う。私は距離が出ないので、アメリカツアーは難しい。でも遼くんは、アメリカでも大丈夫。遼くんの方がまだまだ上」と、この日も石川に9打差をつけてなお、頑固に言い張る。

昨年の11月から、タッグを組む専属キャディの児島航さんが明かした。あれは9月のパナソニックオープンだった。初日の中止が決まったと、電話を入れた児島さんに、金は言った。

「今日は練習もしないし、コースにも行きません」。しかし金はそのあとこっそり一人でコースに向かい、自らバッグを担ぎ、練習場で球を打った。「ワタルはどうしたの?」と、いぶかしがる周囲に「今日はお休みです」と言って、金は静かに微笑んだという。

「それまで僕らは連戦続きで。キョンテがウソをついてまで、僕に休暇をくれようとしたことを、僕はあとから知ったんです」(児島さん)。

謙虚さと優しさ、そしていつも絶やさぬ穏やかな笑みの中に隠した強さ。
なぜ、金は石川と回ると決まってスコアが良いのか。石川目当ての大勢のギャラリーに、リズムを崩す選手もいる中で、金は逆に観客が多ければ多いほど「ますます集中力が増していく」というから恐れ入る。

毎週、トーナメントでスコアやデータ収集を担当するJGTOスタッフが、証言する。「金選手はどんなにスコアが良い日でも、逆にどんなに叩いた日でも、いつも態度が変わらない。静かにアテスト場に入ってきて、じっくりとスコアを確認し、いつもきまって一番最後に部屋を出ていく。自分のスコアに怒ったり、苛立ったり、一喜一憂しているところを見たことがない」。

どんなピンチにも、どんなチャンスにも、冷静に向き合える。石川が「動」の強さなら、徹底して「静」を貫く金の強みがそこにある。強引に攻めるほどに跳ね返される。今週の難コースにあってはその生き様こそが、金の最大の武器となった。淡々とバーディを重ね、ついに頂点に立った。

「彼は実は負けず嫌いです。内にじっと秘めて、外にはめったに見せないけれど」とは、児島さん。
その金が、9月も半ばを過ぎて、賞金レースの様相がくっきりとしてきたころからはっきりと、口にし始めたことは賞金王への強い思い。
優勝賞金4000万円を上乗せて、2007年のデビューから50試合目にして生涯獲得賞金が2億円を超えたこの日。改めてそっと、こう言った。
「今年は最後に1番になりたいです」。
夢実現にむけて、金が静かに動き出した。

※日本オープンを制した金には来年から5年間のシード権と、来年7月の全英オープンと、今年11月の世界ゴルフ選手権HSBC選手権の出場権が贈られます。
  • 「ワタルさんがいないと僕はダメ」というほど信頼を置く児島キャディと健闘をたたえ合い・・・
  • たどたどしい日本語で懸命のスピーチ。
  • その中には石川への感謝も盛り込んで・・・
  • 昨年覇者・小田から着せかけられたチャンピオンズブレザーに腕を通して日本一の喜びを噛みしめる

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