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杉原輝雄が石川遼に謝辞
中学卒業と同時にこの名門倶楽部でプロを目指した。通算56勝も、ここで腕を磨き、血のにじむような努力を重ねてきらからこそ。
そんな杉原がコースの顔として参加した8月18日(月)の大会記者発表会。
会見の前に行われた視察ラウンドで“案内役”をそつなくこなしつつ、初の同組ラウンドで間近で目にする石川遼のプレーに目を光らせていた。
しかし、前半の9ホールは何も言い出せずにいた。
右も左も分らぬアマチュアならいざ知らず、16歳といえど相手は立派な一人のプロだ。
「本人が聞いて来ない限り、安易にアドバイスはするものではない」という思いがあった。
やはり出場選手を代表してラウンドに同行した宮本勝昌に「おい、選手会長よ。石川くんに(飛距離で)負けてるんと違うか」と、歯に衣着せぬいつものジョークで場を和ませながら、「いい加減なことを言って石川くんを惑わせてはいけない。スイングのアドバイスをするからには、それほどの責任を負わないといけない」と、そんな遠慮があったのだ。
しかし、後半の13番ホールでついに石川のクラブを手に取った。
見るに見かね、第2打のアドレスに修正を加えた。
「ピンを狙うショットはもっとハンドファーストに構えて、ドンと落として打っていきなさい。アイアンにはアイアンの仕事をさせなさい」。
石川はまだまだ伸びる・・・。それを確信したからこそのこの言葉。
言い当てられて、石川もハっとしたように「確かに、6番か7番かで迷って、7番アイアンを選択したときに、左に引っかかりやすいんです」。
短めのクラブで届かせよう、という気持ちが影響していたためだろうか。
「アイアンの飛距離が出ないことが、僕の弱点だったんです」と、振り返った。
「杉原さんに言われたとおりに打ったらすぐに球筋が変わりました。今日教えていただいたことは、すぐには実践できないけれど、絶対にやったほうがいいなということばかり。一生懸命に練習して努力して、何年かかっても必ずマスターしたい」。
感謝の言葉を寄せた石川には、「教えてもらわなくとも良いと突っぱねるくらいの意地も欲しいな」などと、ついお節介を焼いてしまったことに、杉原は照れ隠しのジョーク。
「・・・でもその素直さが周囲の人の心を打つんだな」と、これまでにもテレビや人々の噂を通じて見聞きしていた石川の魅力を再認識していた。
また今季の男子ツアーの盛り上がりや、今大会に石川の所属契約先である松下電器産業がスポンサーについたことにも言及し、「それもこれもみんな、石川くんのおかげやから。感謝しないといけない。ありがとうね!」。
プレー後の会見場で、71歳が16歳に向かって真摯に頭を下げたのだった。
ニューヒーローの誕生に目を細めつつ、自身のゴルフにもどん欲だ。
10年間、闘病を続けてきた前立腺ガンに、転移の可能性ありとの診断を受けたのは今年3月。
月ごとの検診で、ガンを表す数値は確実に上昇しているというが、恐れを知らない向上心は、いまだ衰えを見せない。
この視察ラウンドも、石川と同組で回ると知らされてから「試合中よりも、相当練習してきました」と、冗談めかして笑う。
16歳との初ラウンドで、不甲斐ないゴルフは見せたくないというドンのプライド。
飛ばし屋の2人のうんと後ろから打っても、バーディチャンスにつけてみせるしぶとさを随所に見せて、存在感を示した。
本戦は、主催者特別承認を受けての参戦に「本来なら僕には出場する資格などないのですが」と謙遜しつつ、「このコースに長年お世話になって今がある。大会では、僕なりの役目を果たしたい」。
7040ヤード、パー70で行われる“ホームコース”で史上初のエージシュートは達成されるか。
はたまた、史上最年長予選通過は再び成し遂げられるか。
「・・・予選突破だけじゃない。優勝も狙いますよ」とドン杉原。
最後は冗談とも、本気ともつかぬ口調でニヤリと笑った。