記事

ゴルフ日本シリーズJTカップ 2010

金庚泰(キムキョンテ)が2010年の賞金王に

ご両親に捧げる賞金王!!
藤田寛之と谷口徹のまれにみる大激戦の余韻が色濃く残る18番グリーン。恒例の全員参加の閉会式。この1年の感謝のスピーチでマイクを握った選手会長の深堀圭一郎が切り出した。

「そんな中でも忘れてはならないことは、今年このジャパンゴルフツアーで、金庚泰(キムキョンテ)選手が韓国人選手として初めての賞金王に輝いたことです」。

すり鉢状になったスタジアム風のパー3が、たちまち大きな拍手に包まれた。ちょうど前の席に座っていた石川遼が促した。
「キョンテ、立って!」。
25歳のキングがおずおずと、腰を上げて深々とお辞儀。
いっそう沸き立った大歓声の中で、深堀のスピーチは続く。

「海外の選手が活躍すると、どうしても“日本人がもっと頑張れ”という空気になってしまう。でも彼は、アマチュア時代から活躍を重ね、プロになってからはこの日本で努力を続け、確実に成長をとげて、いまこの位置にいます。彼はジャパンゴルフツアーメンバーで、我々の仲間なんです。どうか彼をたたえ、これからも応援してあげてください」。

それはまさに居合わせた27選手のみならず、ともに1年間を戦い抜いたシード全70選手の気持ちでもある。

日本に来て3年。今年は6人の韓国人選手が初シード入りを果たすなど、母国の友人にも事欠かないが、日本人選手の友達も格段に増えた。

「みんなに暖かく受け入れてもらったから。韓国人であるということを、意識しない環境で、プレーさせてもらうことが出来たから。この結果が得られたのだと思います」と金は言う。

ライバルにも恵まれた。「今年、最後まで賞金王を争った石川選手と池田選手。素晴らしい選手2人と競い合うことで、僕も大いに刺激を受けたことも、この結果をもたらしてくれたと思います」と、感謝する。

日本語も格段に上手くなり、夕食では仲良しの日本人選手たちと、ゴルフ談義に花が咲く。金自身も積極的にその輪の中に入って行こうと、ゴルフ以外のところでも、努力を重ねた成果でもある。

終了後は誰からともなく声が上がった。
「キョンテを胴上げだ!」。並みいるトッププレーヤーたちの手で、軽々と宙を舞い、歓喜の悲鳴をあげた。

そして、もっと嬉しかったのは、選手たちが息子である自分よりも真っ先に駆け寄ってその手を握り、「おめでとうございます」と、自分の両親にまで次々と祝福の声をかけてくれたことだ。

いつも大きな愛で包んでくれる母親の曺福順(チョ・ポクスン)さん。元プロゴルファーの父・基昌(キジャン)さんは、いつも絶妙なタイミングで自らの経験を踏まえたアドバイスをくれる。

「人生をかけて、僕をここまで育ててくれた父と母には本当に、感謝しています」。

今年の獲得賞金は1億8110万3799円。シーズン中に、マネージャーの伊井祥薫さんが、何度も確認した。たとえば交通。レンタカーは「今年、たくさん稼いでいるから。ひとつ上のクラスを借りておこうか?」。
金は静かに首を振る。
「いいえ、いつもの車種で構いません。エコカーで、お願いします」。
宿もジャパンゴルフツアーの提携で、割引がきくビジネスホテルがお気に入り。飛行機は、今も変わらずエコノミー。新幹線は、ときに自由席を利用することも。
「金銭感覚は、デビュー当時とまったく変わりません。欲もない。たまの気晴らしは、仲間と大好きな玉突き(ビリヤード)で遊ぶことくらい」(伊井さん)。

1億円プレーヤーの徹底した節約も、ひとつのポリシーがあるから。「僕が結婚するまでは、お金はすべて親のもの」。今年一番の投資は、ソウル郊外に購入した別荘。もちろん、両親のために買ったもの。
9月のアジアパシフィック パナソニックオープンで、今年初めて賞金ランキング1位に躍り出たときに、両親と約束した。
「今年は賞金王になるよ」。
「私が実現出来なかった夢を、あの子が次々とかなえてくれる。孝行息子を持った私たちは、本当に幸せ者です」と、胸を押さえたアボジは仲間に手荒い祝福を受ける息子を頼もしそうに見上げていた。

  • 快挙達成の日は応援の垂れ幕も登場した
  • 今年も賞金王争いに破れた消沈の池田も金のご両親を真っ先に祝福。男気を見せた。
  • トッププロ27人の手で宙を舞った
  • 激動の1年を支えてくれた専属キャディの児島航さんにも労いの言葉を

関連記事