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続いて、横尾要が伝道師に(3月1日)

真っ白なままのホワイトボード。結局、板書しないで喋り尽くした

今年5人目の“伝道師”は、自称・挫折を知らない男。今年40歳を迎えるが、生まれてこのかた「スランプを経験したことがない」。小6の卒業文集に「夢はプロゴルファー」と書いた。加えて「ハワイアンオープン(※現ソニーオープン・イン・ハワイ)と世界メジャーに出場したい」。それも、あっけなく実現した。

前者は10歳のときにその瞬間をテレビで見た。ゴルフをはじめる一番のきっかけとなったトーナメントだ。青木功が奇跡のチップインイーグルで、米ツアー初制覇を達成した大会への出場は、横尾が95年にプロ転向した翌年だった。「23歳で、夢がかなった」。

そして4大メジャーのひとつ、全米オープンはさらに4年後の99年だ。それから5度の出場を果たした。本場で大ギャラリーの中でのラウンドを経験したことを機に、思いついた。「俺もいつか、アメリカでやってみたい」。それすらその2年後の2001年に実現させて、3年間を戦った。

「心に思ったことは、すぐにかなうんです。昔からそうなんです。僕は相当に運がいい」。
トントン拍子のゴルフ人生は、しかし小5に右腕を骨折して大好きな野球も諦めざるをえなかったり、中学・高校受験ともに失敗したり、悔しい思いはそれなりに経験してきた。

それでも「壁にぶち当たったことがない」と、素知らぬ顔で言い切るのは「挫折も、本人が挫折と思うかどうか。それを、壁だと思うかどうか」。要は、それらはすべて「本人の気持ちの持ちよう」との哲学があるからだ。

今回、子供たちに一番に言いたかったのはとりもなおさずその一点で、“ゴルフ伝導”の慣例として、誕生から現在までの“マイ年表”を板書するはずのホワイトボードは、まるでこの日3月1日に朝5時起きで、羽田空港発6時55分の機内から見下ろした。一面の銀世界のように、けっきょく最初から最後まで、真っ白のままだった。

山形県の酒田市立若浜小学校で、約300人の児童相手に行った「夢を持とう」の講演会は45分の持ち時間も、子供たちに一度も背中を向けず、子供たちから一度も視線を外すことなく一気に語った。

たとえば、中2で初めて出たジュニアの試合は、予選すら通過できなかった。「でも、もともと自分がそんなに出来ると思って出ていなかったから」。むしろ、あと3打縮めればカットラインに届くと知って、「なんだ、レベルってそんなもんなんだ」と、プラスに捉えて翌年にはあっという間に全国大会まで駒を進めて、トップ10にも手が届くほどの成長をみせたのだった。

千葉県の東京学館浦安高から名門・日大に進んだが、「プロになろうなんか、まったく思ってもいなかった」。憧れのOBであった丸山茂樹がプロ転向して、すぐに試練を味わった。「学生時代に無敵だった丸山さんですらあんなに苦しいんだ」と知って、一度は家業の八百屋さんを継ごうと決めていたほどだ。

「俺なんか、通用しない」。そういう謙虚さが常に根底にあるから結果が出なくても、むやみに落ち込むこともなく、さらに努力をしようと思う。逆に、思いがけず好結果が出せれば「俺には出来過ぎだと思う」。同時に「俺もやれば出来るんだと良い意味で勘違いも出来るから。それでまた余計に前向きになれる」。そうやって、常にプラス思考で軽やかに、ハードルを越えてきたゴルフ人生だ。

スポーツ万能だったという少年時代。「みんなも僕のように、いろんなスポーツを経験して、強い身体を作って欲しい」と、願うにつけてもその中からどのスポーツを選ぼうと、どんな道を進もうと「人生は浮き沈み。良いときも、悪いときもある」。その繰り返しの中で大切なことは、「悪いときに、どういうふうに気持ちを持って行けるか」。そのことを、子供たちには頭の片隅に入れておいて欲しかった。

それでも昨年は、61位に終わった賞金ランキング。今回の“伝道師”の辞書には確かに「スランプ」の4文字はないのだが、やっぱり給食の時間や講演会のあとで、子供たちから質問や、サイン責めにあったり、心温まる歌のプレゼントをもらったり、帰り際にはたくさんの子供たちが校舎を飛び出してきて、元気な声で見送られれば、気をひきしめないではいられない。

小3になる長女・紗千ちゃんと、同じ年まわりの子供たちにこぞって「頑張ってください」「テレビで応援しています」などと励まされれば、無視出来ない。
創立40周年の同校と、偶然にも“同い年”のベテランは、「みんなに元気をもらった」と、思うにつけても「今年は頑張らないといけない」。
賞金ランキングも、「下から数えたほうが早い」、なんて子供たちにも面目が立たない。「今年は優勝を目指します」といよいよ不惑の年に、5年ぶりのツアー通算6勝目を約束した。

  • 午前中の講習会、午後からの講演会の合間の休み時間の隙をねらってサインをねだりにやってくる子供たちに息つく間もなく・・・。
  • 4年生のみんなと食べたにぎやかな給食では、横尾もやっぱり質問攻めに
  • 女性の職員さんたちがたててくださったお抹茶をぎこちない手つきでいただく。花模様のお茶碗は「今年、横尾プロの成績もパッと花咲きますように」との願いが!!
  • 別れを惜しむ子供たちに見送られて、今季への思いを新たにした。

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