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ダイヤモンドカップゴルフ 2012
藤田寛之がツアー通算13勝目
前日3日目に、自ら言った。「一度は先頭集団に、飲み込まれてもよいかもしれない」。その言葉が心中で、不吉に反響したのは後半の11番。ティショットでOBを打った。ダブルボギーも「ここまでは、まだ良かった」。
これまた前日に、「並ばれても振り切る力が自分にはある」と、言ったとおりに14番で、8メートルのバーディをねじ込み、再び突き放した。
しかし、その直後に「さすがに心が折れかけた」。
15番で144ヤードの第2打は、「左サイドを怖がって、必要以上にクラブが開いて当たった」と、右シャンクのOBには「予期せぬ出来事に、頭が真っ白」。2個目のダブルボギーに、「逆転されるイメージがちらついた。ダメかもしれない」と、弱気になった。
追走するアフィバーンラトも、14番から3連続ボギーと崩れたことで、辛くも逃げ切ったが「後半の自分は本当に情けない」と、手放しで喜ぶ気にはとてもなれない。
ヒーローインタビューでも言った。「男子の迫力あるショットをぜひ、現場に見に来て下さい」。
かくいう自分が、この日ばかりはそういうゴルフで魅了することが、出来なかった。
「なんとOB、シャンク。大失態をしてしまいました」と、改めて頭を下げた。「勝てたのは嬉しい。でもそんな自分がなんでここにいるのか。複雑でございます・・・」。
それでも最終18番は、第2打をあご近くのバンカーからひとまず脱出して、残り222ヤードの3打目は24度のユーティリティで、ピンそばに寄せた見事なバーディ締めが、せめてもの救いだ。
毎年、シビアなセッティングが特徴のこの伝統のサーキットトーナメントは今年も例年どおりの難条件を制した。
薄氷のツアー通算13勝目も、これで40歳を越えてからの勝ち星は7勝と、それ以前を上回り、19773年のツアー制度施行後としては、歴代6位の記録である。
初の世界メジャー出場は2005年の全英オープン。「すげーな、こんなレベルが高いんだ、と。ダメだ、こんなじゃ。もっとやらないと」と、もともと無類の努力家が自身にいっそうムチを入れるきっかけに。
「もっともっと上手くなりたい」。いっときも立ち止まることを知らないその積み重ねがいま、藤田を限界のない高みへと押し上げていく。
月曜日の全米オープン最終予選はプレーオフを含めて1日37ホールと、今大会は水曜日のプロアマ戦。そして本戦の72ホールは、1週間で計127ホール。加えて火曜日のトレーニングや、ホールアウト後の打ち込みも、「実は面倒くさい・・・。僕だって、そう思うことはもちろんあります」。
誰でも持つ怠け心。また「上手く行かないと、もう引退かもと思ったり」。
誰でも感じる将来への不安を振り払い、今日も小さな体を駆使して力の限りにクラブを振るのは「こんなに応援してもらって、みんなに支えてもらって、僕のゴルフを見てもらって、こんなに恵まれた環境にいて、何が不満なのか」と、そんな思いが常にあるから。
身長は168センチでも、人よりは飛ばなくても、「それが日本でも、世界でも、同じ人間がやっていること。出場するからには誰にでもチャンスはある。限界を決めるのは自分」との、強い信念を持っているから。
開幕から6戦目にして早くも2勝目にも「僕は遼くんのように、スーパースターでもなく、普通の選手。たいした選手じゃない」と、藤田は言う。「普通なのに、ここにいてもいいのかなと時々思う」と、本気で首をかしげる。「下手だからこそ、やるしかない」と、とことん厳しい視線の先には、あこがれのメジャー舞台が待っている。
全米オープンの資格はすでにある。この優勝で、今年もまた全英オープンも、全米プロにも出られる可能性が出てきた。もしかしたら、今季3勝以上をあげれば来年のマスターズにも、昨年に次ぐ2度目の挑戦が叶うかもしれない。
「日本人選手でも、あの舞台でやれるんだというのを見せることが、プロゴルファーの使命だと思っているので。普通でも、やれるんだというのを見せたい」。
その気概が42歳の底なしの向上心を支えている。