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ダイヤモンドカップゴルフ 2013

松山英樹の目下、いちばん苦手なものは

人前で、思いのたけを語ることが、本当に苦手なのだ。もちろん、熱い気持ちは人一倍。いつだって、どの試合でだって勝ちたい。可能な限り、上を目指して自分の限界に挑みたい。その思いで、いつでも21歳の心は一杯。

しかし、それは出来るだけ内に秘めておきたい。「結果はゴルフで見てくれというタイプなんです、英樹はずっと昔から」とは、東北福祉大の阿部靖彦ゴルフ部監督。

感情を抑えたぶっきらぼうな物言いが近頃、関係者の間で話題となり、阿部監督ばかりか青木功やジャンボ尾崎までが本人や、人を通じてもの申す事態となった。さすがに、自分でも話しても良いと感じたことは、本人なりに誠心誠意で答えるようになったがこれは絶対に、言いたくないと思ったことは、どんなに責められても絶対に言いたくないのだ。

その線引きは、人からどんなに言われても、かたくなに守っている。
トレーニングで鍛え上げられた肉体も、いつも聞かれて本人が言うのは、「一杯食べて体重を増やしました」。大会期間中もコース近辺を走り込んだり厳しいトレーニングのたまものも、努力はわざわざ大勢の人の前で、言って回るものではないという思いがある。

それでときどき人から誤解を受けたりするが、今はいい大人の人たちにもきっと、覚えがある。「俺自身、あいつの歳に、言いたいことを上手に言えたか。大勢の人の前で、自分の気持ちをべらべらと話すことが出来ただろうか。いいや、言えなかった。俺があの歳に、あいつのように、あれほど大勢の前で話す機会もなかったしね」と、阿部監督。

だから分かってやって、とは言わない。せめて「待ってやってください。いま、ひとつひとつ勉強をさせているんで。まだあいつは、21歳のガキなんで」と、頭を下げた恩師はそれでもひとつ、苦い顔で「表彰式のスピーチは、やっぱりあれではいけないなあ・・・」。

プロ初優勝のつるやオープンでも、第一声はそうだったが「何て喋ればいいのか。迷ってしまうのですが・・・」とモゴモゴと、コースではあれほど堂々たるプレーぶりも、マイクを握るとたちまちヘナヘナになってしまう。たとえば今回のスピーチでも、今週はジャンボと中嶋と回ったことについて「勉強出来ることが、出来ました」。
・・・すっかりとっ散らかっていた。

本当に、よほど苦手なのだ。
「ああいうね、スピーチだけは早く勉強させなくちゃなとは思いますよ」と、阿部監督はそこは厳しく言ったが、それでも押さえきれない喜びを隠しきれずに満面の笑みで、一生懸命に語る21歳の率直な思いがちゃんと伝わっていたことは、大勢の鳴り止まぬ拍手や歓声が物語っているし、地元ファンの方々は、21歳の不器用さも暖かく受け止めていた。本人が感じたままを、飾らずに自分らしい言葉で素直に語る。それが、かえって人の心に熱く迫ることもある。

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