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世界のアオキが宮崎で「勝つためのゴルフ」を伝授
“サプライズゲスト”も今回の参加者はみな薄々感づいていたとおりに、早朝の練習場に颯爽と登場したのは青木功。オマエらをどう料理してやろうか・・・とばかりに手揉みしながら入場してくるなり青木節が飛び出した。
今回は最年少の18歳。竹内輝樹をつかまえて「オマエはA型か?」。竹内は得意満面で答える。「いえ僕はB1(ビーワン)です!」。「???」。青木の頭の中にハテナマークが並ぶ。今回の合宿では人間の体の動きには4つのタイプがあるとする4スタンス理論の提唱者である廣戸聡一氏の指導のもと、それぞれの体の特性を「A1」「A2」「B1」「B2」と名付けて早朝のトレーニングも打込みも、フェニックスCCでのラウンド合宿も4グループに分かれて取り組んできた。
さかんに「A」とか「Bタイプ」といった言葉が飛び交い4日目を過ぎたころには参加者の頭の中もそれ一色。竹内も喜々として自分のタイプを“カミングアウト”したはいいが、昨年から2度目の取り組みとなる合宿を通じても初参加の“特別講師”にはピンとくるはずもなく、自分は血液型が何かを聞いたのにこの若いのは一体何を言っているんだろう?
「B型なら俺と同じだ。それならもっとあっけらかんと打てるはずだよ。俺はB型の中でもRhのマイナスだけど、オマエはきっとプラスなんだな」。実際のところ、竹内は血液型もB型だそうで辻褄があっているのかいないのか。
それはさておき青木が総じて参加者たちに伝えたかったことは「曲がっちゃいけねえと思うな、スイングをしろ!」。青木曰く、ゴルフは曲がることを前提としたスポーツだ。「それなのに、今の子はなぜ真っ直ぐ打つことばかりににこだわるのか」。たとえばあの風に対してどれだけの曲げ幅で打って行こうか、左か右か? 「俺は多分プロゴルファーで一番好奇心旺盛だから」。難条件に向かってあらゆる球筋を駆使して立ち向かってみたくなる。それこそ全盛期には国内外を駆け回った原動力でもある。
「ゴルフは厳しい自然を相手にするスポーツなのだから」。実戦では特に、「強い球」というものが必要になる。「プレッシャーにも負けない、強い球を打つためにはインパクトをどこで迎えたらベストか。ボールの位置は? 頭の、肩の位置はどうか」。ビシビシと参加者たちに改良を加えていく。
そこで、ちょっと疑問がわくのが先にも言った、体のタイプ別。提唱者の廣戸氏によれば、もちろん青木にもタイプがあり、では青木が自分とは真逆のタイプの選手に指導する際に助言が見当外れだったり、支障はでないものなのか。
言うまでもなく、そんな懸念は不要だった。改めていうが青木は4スタンス理論など知るよしもない。それでもわずか2時間あまりの集中レッスンの間に参加23人の全員の特性を瞬時にとらえ、誰にも見違えるような球を打たせた。50年のプロ生活で培われた技術と無尽の知識。それらを語る独特の青木節はみごとに廣戸氏の理論とリンクしており矛盾がほとんどなかったからだ。
前日3日目のラウンドで71をマーク。3人タイのカウントバックで1位に輝いた嘉数光倫(かかずてるみち)。ツアー出場優先順位を決める昨年12月のファイナルQTはランク31位。今季前半戦の出場権を獲得した沖縄出身の24歳は青木の指導を受けるなり「今までにない感触の球が打てました!」。
熱血指導はこの日午後からのラウンドのスタートギリギリまで続いてシーズン真っ只中のマスター室をヤキモキさせたほど。「やる気のある子は目をみれば分かる。キラキラしてれば俺だって本気になるよ」。
この日は9ホールのラウンド終了後にまたすぐ練習場に集合して、再び青木による集中レッスン。独特の構えでどこからでもカップに沈めて「東洋の魔術師」と異名を取った。そんなパットの極意を伝授する前に、青木のゲキが飛んだ。
「今日のラウンド。オマエらのスタート見たけど午前中に俺が言ったことが、全然出来てない。曲がることを怖がっているヤツばっかりだった」とこのときばかりはきつい口調に参加者は、神妙な顔で首をすくめる。ショットにしろパットにしろ、青木は一貫して参加者たちに叩き込もうとしていたのは勝つためのゴルフ。
「72ホール目の最後の1打」は1メートルのバーディパット。「入れたい、勝ちたい」。重圧の中でいかに練習通りのストロークが出来るか。欲望を抑えて目の前の1打に集中出来るか。8人組を作らせて、カップの回りで円陣を組み、1人につき2球ずつ順繰りに打たせる。16球すべてカップイン出来るまで続ける。誰か1人でも外したら、初めからやりなおしだ。
参加者たちが悲鳴をあげる。「シビれるわ〜!!」。「情けない! それが嫌ならゴルフをやめろ!」。
この腕1本でこの地位を築いてきた。71歳の今も溌剌とゴルフ界のど真ん中で生きる。「やるからにはこの人生しかないと思ってやらなければいけない」。疲れた、寒い、きつい、つらいなど言語道断。「乗り越えられるほどの体力がなければ、プロゴルファーなんてやっちゃいけないんだ」。
厳しいセリフの裏には愛情も一杯だ。
「あなたたちは明日で離れ離れになるわけだけれども1人になっても出来ることを今日、俺は伝えたつもりだよ」。この強化合宿はいよいよ翌21日に最終日を迎えるが5日間で得たものを生かすも殺すも自分次第だ。「いくら俺がうるさく言ったとしても、結局やるのはあなたたちだから。今日伝えたことを応用してやるのもあなたたちだよ。期待している」。
そして最後は優しい声で、「俺のほうからあなたたちに連絡はしない。でも今日、俺が伝えたことを自分で色々やってみて、それでも分からなくなったらいつでも聞きに来なさい。待っている」。
世界のアオキが大きく腕を広げて待ってくれていると思えば、イバラの道も迷わずに歩いていける。