記事
中日クラウンズ 2010
藤田寛之が「和合をやっつける」
「“花嫁を送り出す父”という役をやってみたかった」と藤田は言った。
愛娘を他の男の元にやる心境。
「あれもまた、非常に辛いことなんだろう、と思って・・・。そういう困難にも立ち向かってみたかった」と、珍妙な理由で残念がった。
目の前の困難が大きければ大きいほど燃えるたち。いや、むしろ、困難がまったくないと、燃え上がれない。
それを克服したときの達成感にしか、喜びを見いだせない。
先週の「つるやオープン」は、谷口徹とのプレーオフ3ホールの激闘を制し、自身9度目の頂点に立ったが「今週は、先週以上にやる気が出ます」。
何より経験がものをいうと言われるここ和合での優勝争いは、他の誰かとの戦いというよりも、「コースとの戦い」という意味合いが強くなる。もともとそういう勝負が大好きなのだ。
「それが本来のゴルフの姿だと思うから」。
そういう意味でも、この日2日目は胸がたぎった。
晴天の乾いた空気と、上空を舞う強い風。グリーンも、雨に見舞われた初日とは打って変わって、本来のスピードが徐々に出てきた。
「和合が本気を出してきた」と感じた瞬間に、火がついた。
「むしろ本気を出してくれないと、やる気が出ない」。
牙を剥かれてこそ、望むところだ。
7番と、15番で10メートルのバーディパット。
「コースが僕に、“上にいろよ”と言ってくれているのかな」。
ずっと敵対してきた和合の神様の後押しすら感じた、この日のラウンドだったが、この日5アンダーは、65のベストスコアは和合への挑戦状であることに変わりない。
「2、3ヤード刻みでの正確性を要求してくる。ミスと成功が紙一重。だからこそ達成感は、他のコース以上です。やる気が満々に沸いてきます」。
普段柔和な選手の口から威勢のよい言葉がポンポン出てくる。
予選2日間を、同組でまわった青木功にも感化された。
「今日はアプローチをすべて、見させてもらった」。
自分との違いをじっくりと検証する余裕すらあった。
「僕はクラブが寝たり、開いて入ったりしてしまうけど。青木さんはインパクトで締まっていて、パンチショットを打つイメージ。青木さんの、ボールを上から捉える動きが目に焼き付いた」と、終盤ホールではさっそくプレーに取り入れる貪欲さだ。
トーナメントでいつも目標としていることが、「これぞプロ」たるパワーや技術をファンの人に見てもらうこと。
誰にも真似出来ない雰囲気やオーラを感じ取ってもらえる選手になれること。
青木はその歩くお手本のような存在だ。
独特の世界にどっぷりと引き込まれたこの2日間。
最後は、一人のファンの視線と化した。
青木が17番でチップイン。
「自分のことのように、ガッツポーズをしてました」と照れくさそうに、「今や理屈の多いゴルフ界で、プロの世界はそんなもんじゃないと、そういうことをまざまざと見させていただいた」。
先週の優勝スピーチで残した名言「プロの中のプロというゴルフ」で「いつか和合をやっつけたい」と、その思いを強くした瞬間。
2週連続Vで、宿敵・和合を制してみせる。