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マイナビABCチャンピオンシップ 2015
金庚泰(キムキョンテ)が今季5勝目
「今日はノーボギーか、打ってもボギー1個で行けたらいい」。最初に決めたそんな目標も、グラグラ揺らいで「こんなショットで、ボギー1個は無理だろう」。
スコアにこだわるのは、すぐやめた。とにかく確実にグリーンをとらえることに専念した。幸いにも「7メートル以上のが、15回以上は入っている」と、今週はパットが尋常でないくらいに絶好調だ。どうにかパーオンを続けていれば、ショットの不振も耐えられる。
「優勝は出来なくてもこれ以上、悪くはならないように」と、前半はじっと耐えて、好機を待った。
まさに鬼のようによみがえったのは、前半を1オーバーで折り返してすぐだった。10番でもティショットを曲げて、左のバンカーへ。ピンまで170ヤードの2打目は「しかも、アゴまで1メートルしかなくて」。7番アイアンで打てば、土手に直撃するかもしれない。「でも8番なら、グリーンには、ギリギリ届かないかもしれない」。
逡巡の末に、7番アイアンで思い切りクラブを開いて、振り切った。
どうにかグリーンは捉えた。「パーでは終われる」と確信した12メートルのバーディパット。思いがけずにカップに沈んで、「あれが、今日一番大きな一打」。
鬼は完全に息を吹き返した。
「そこからリズムを取り戻せた」。12番で5メートルのバーディチャンスを沈めて、いつも静かな男が珍しく、ガッツポーズを握った。再び、首位に返り咲いて最後は2打差で振りちぎった。
賞金レースで先頭をひた走る鬼。今週金曜日には、谷口徹に言われた。「キョンテは、もうええやろう」。すでに4勝もしているのだから、これ以上勝たなくてもいいだろうと、尊敬する大先輩のひとりからの牽制球。そんな会話で散々いじられたあとに、最後にひとこと。
「でも、女子には負けるな!」。
目下、女子ツアーで賞金1位を走る“スマイルキャンディ”は、昔なじみの後輩である。イ・ボミ選手は、今年すでに5勝をあげて、獲得賞金でも2億円を超えようかという勢いに、庚泰(キョンテ)も驚いている。
「3つ下の彼女のことは、中学時代から知っている」。韓国の京畿道水原市の練習場でよく一緒になり、「あの頃からちっちゃいのによく飛ばすし、よく練習するし、なんでナショナルチームに入れないのかと不思議だった」。近頃は互いに忙しくて会えないが、「昔とまったく同じスイングをしている」と、その活躍はテレビで頼もしく見ていた。
「でもあの人はおかしいですね。調子悪くてもトップ10だし、まあまあだとトップ5だし、ちょっと良くなったと思ったら優勝でしょう。おかしいですよ」と、苦笑いで頭をかしげる本人こそ、人のことは言えないだろう。
谷口は、庚泰(キョンテ)に“もう勝たなくていい”と言っておきながら、ボミ選手には負けるなと言う。「いったい僕はどうすればいいの?」と、困った笑顔をしておきながら、あっさりとそのボミ選手に勝ち星で並んで、2001年の伊澤利光以来となる年間5勝をあげて、優勝賞金3000万円を積み上げた。
韓国選手として初の戴冠は、2010年。「5年前のあのときも、この大会で優勝してほぼ賞金王を決めました」。大会2勝目もまた、ただ一人4日間とも60台を出して、賞金ランク2位の池田勇太との差を、7568万9621円にまで広げて今大会と、ABCゴルフ倶楽部との不思議な縁に首をかしげる。
「このコースに来ると、どんなに調子が悪くても、なぜか良いプレーが出来るんです」。名物の高速グリーンは今年、4日間ともシビアなピン位置に、アレルギー反応を起こしてしまう選手もいる中で、「俺はこのコースが好きだな」と、鬼にはむしろ我が庭に「今週は、5年前の記憶を思い出しながらやりました」。
次週は、中国で開かれる世界ゴルフ選手権「HSBCチャンピオンズ」で日本ツアーを空ける目前に、さらりと5年前の再現をやってのけ、2度目の王座にまた一歩近づいた。