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ブリヂストンオープン 2015
松村道央がツアー通算5勝目
この日、袖ケ浦に吹き荒れたいつもの北風。乾いて硬く、ますます速くなったグリーン。誰もが嫌がる難条件も「僕にはウェルカムだった」。今季は序盤からクラブに試行錯誤したのと、パッティングに課題を抱えて、夏には4戦続けて予選落ちなど足踏み続きも、ANAオープンと、アジアパシフィック ダイヤモンドカップで2試合連続のトップ5入り。9月からやっと上昇ムードはその2大会でやっぱり風の日に、良いスコアで回れた経験が、まさにこの日の追い風になった。
こんな日の攻め方は、心得ている。ひたすら耐えるだけでもダメ。隙あらば、チャンスは絶対に逃さない。「心のどこかにそんな気持ちを持っておく」と、13番でいよいよ首位に並ぶと、16番でとどめの一撃だ。
ピンまで12歩あるいた3打目のアプローチを、58度のウェッジでチップイン。イーグルで、とうとう単独首位に踊り出た。「優勝する資格をかなり得た。優勝カップに手が届いたと思った」と、18番のパー5も難なくバーディ締めで、そのままがっちりとつかみ取って離さなかった。
初日に単独首位に立ち、常に渦中にいた堀川未来夢は日大の後輩で、2日目からV争いに加わった片山晋呉は大先輩だ。たった一度の会食で、片山は堀川を気に入ったという。「あの片山さんにですよ! 凄いルーキーだな、と」。デビュー当時から、師匠の谷口徹に可愛がられるなど、我こそがツアーのいじられ役と、自負してきた松村だったがちょっぴり嫉妬で「うらやましい・・・」。筋肉ムキムキの堀川。一見、飛ばし屋は、しかし飛距離を捨てたことで近頃、赤丸急上昇に、谷口も練習場で堀川に、「勝った、勝った」と喜んでいた。片山には「いいキャラしてる」と言わしめた堀川。「いろんな人に可愛がられて、いいなあ・・・」と、自分も立派な師匠を持ちながら、そんな焼きもちが、最終日の原動力になったというわけでもないのだが、「後ろはバチバチやってんだろうな」。2つ後ろの最終組の戦いぶりを想像して、松村も心が燃えた。
先週は、やはり日大出身の小平智が日本オープンを制して、近頃は松山英樹を輩出したことでも有名な、東北福祉大勢にやられっぱなしだったが、「日大も、まだまだ強いと見せつけられて良かった」。母校の面目躍如にも一役買った。
1年8ヶ月ぶりのツアー通算5勝目は、長男の羚央(れお)君が生まれてツアーで初めての記念Vでもある。羚央(れお)君を抱っこして祝福に駆けつけた妻の香織さん。家族の思い出の場所が、またひとつ増えた。ここ袖ケ浦は、今でもフリーのアナウンサーで活躍する香織さんのかつての職場だったことは、優勝インタビューで聞いた。日本テレビの山下美穂子アナウンサーからその件で、マイクを向けられ一瞬、きょとんとした。
「え、そうだったんですか?!」と、夫には寝耳に水も無理はない。香織さんが、大会のスタートホールで5年ほど、選手コールを担当していたのも、松村がデビューする前の話だ。7つ上の恋女房は、しかし旦那のほうがよほど老けて見えると評判で、「お前、俺に嫌味か」と、師匠の谷口ににらまれながらも、昨季の金色から今年の開幕ではいちどは黒に戻したが、夏からまた明るい茶色の髪色に染めなおしたのも、「若々しくありたい」と、愛らしい妻との見た目バランスを保つため。
久しく勝ち星から遠ざかっていた間は、「妻にも心配を、かけたので」。たまに会場に応援に来てくれたときにも、関係者や知人から「またシリーズでね」。住まいを構える都内で開催されるシーズン最終戦での再会を約束されても、複雑な心境だった松村夫妻。優勝者と賞金ランク上位選手にだけ許された年に一度の頂上決戦も、先週までは“圏外”で、夫としても心が痛かった。
08年の初シード入りから、7年連続のシード権も、松村にはこだわりがあった。「ダラダラとシード権を取っているだけでは満足出来ない。常に優勝を目標に頑張りたい。それに向かっていつも、努力をしているのでこれでまた、ひとつ報われた思いです」。
この1勝に弾みをつけて、師匠のように威勢よく、「賞金王を狙う」と言ってみたいところだが、「歴代の人たちを見ても、自分には足りない部分が一杯あるから」と、今はまだ、大きな口は叩かない。「これから2勝、3勝を目指して最終戦あたりで、どうにか届く位置まで持って来られたら」。残り6試合も野望は秘めたまま、まずは謙虚に上を目指していく。