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石川遼 everyone PROJECT Challenge Golf Tournament 2014
チャレンジトーナメント史上稀に見る死闘を繰り広げた沖野克文と前粟藏俊太
最後まで沖野とのデットヒートを演じた前粟藏が笑顔で答えた。
誰よりも“勝ち”にこだわっていたはずの男が、最後は清々しい笑顔でさらりと発した言葉だった。しかし、その笑顔にも“悔しさ”を感じ取ることができた。
スタートの1番ホールそして2番ホールと幸先良くバーディーを奪う前粟藏。首位を走る沖野に並び12アンダーパーとしたのも束の間、バーディー合戦にゴングを鳴らすかのように、沖野が2連続バーディーを奪い返し再び2打差とする。一進一退、まさに男同士の拳と拳を交じり合わせるかのようなバーディー奪取の応酬が、お互いを、そしてギャラリーを興奮のるつぼへといざなう。
前半のハーフは沖野が5バーディー、前粟蔵が6バーディーを奪い、沖野が1打リードして後半を迎えた。11番ホール、12番ホールとたて続けに沖野がバーディーとし、一気に3打差が開いてしまった。
誰もが沖野の勝利を予感したが、前粟藏だけは自身の優勝を信じてやまなかった。
14番ホールでバーディーを獲り、沖野との差を2打としプレッシャーを掛ける。
そして16番ホールのパー5、お互い2オンに成功した。「ここでは差が縮まらないかも」と前粟藏は2パットのバーディーを奪う。
誰もがバーディー分けかと思った瞬間、沖野のバーディーパットが外れる。これも“優勝”のプレッシャーなのか「ずっとパターに苦しんでいて、たくさんの人からアドバイスをいただき、やっといい感じでパッティングができている」と話す沖野が、今週初めて3パットをしてしまった瞬間だった。
続く17番ショートホール、先にバーディーチャンスにつける前粟藏。沖野のティーショットはグリーンを捉えるも、優勝のプレッシャーからか前粟藏の内側に付けられない。
沖野はパーとし、前粟藏はこのチャンスをしっかり捻じ込みバーディーとした。
この瞬間、2人のスコアが19アンダーで並んだ。
そして迎える今大会54ホール目の18番ホール。ここで最大のドラマが待ち受けていた。
前粟藏のティーショットは300ヤードを超えるビッグドライブで、見事フェアウェイのセンターを捉えた。
対する沖野のティーショットは右の林めがけて飛んでいく。「完全にミスショットでした。リズムが早くなり、右にすっぽ抜けてしまいました」と話した。
不運にも2本ある巨木の間のラフにボールが止まった。しかも前の木に近く、とてもではないがフォローが取れない、そしてフルスイングができるような場所ではなかった。
前粟蔵が先にセカンドショットを打つ。「120ヤードをピッチングウェッジでカット目に入れて距離を調整しようとしたけど、掴まってしまった」“優勝”への強い執着心からなのだろうか、放たれたボールはピンを大きく超え、奥のバンカーに掴まってしまった。
続いて沖野の2打目「どうやったらパーセーブできるかだけを考えていました」グリーンエッジまでの距離は83ヤード、ピンまではおよそ100ヤードの距離に対し、7番アイアンを手に取った沖野。
「フォロースイングが取れない状況でしたが、7番アイアンでフックをかけようとしました」低く打ち出されたボールは見事にフックがかかるも、「掴まりすぎて、必要以上にフックしちゃいましたね」とグリーン左奥にこぼれてしまう。
お互いパーオンすることなく、勝負は3打目のアプローチへと持ち越された。
3打目は沖野から打つ。難しい下りのスライスラインに対し、優しく高いボールを放ち見事1.5mの距離に寄せた。
対する前粟藏はグリーン奥のバンカー淵ラフから寄せきれず、3m下りのパーパットを残してしまう。
勝負を決するパーパットは前粟藏から打つ。
「大会前にはショットについて、いろいろと小山内さんから学んだ。そしてパッティングについては、父から“自分を信じて打て”と言われていた」と話すように、果敢にパーパットを狙って行った。ゆっくりゆっくり下りのラインに乗って加速していくパーパット。しかし無情にもカップ30㎝手前で大きく右に逸れ、パーセーブとはならなかった。
一方、1.5mのパーパットを沈めれば優勝となる沖野のパーパット「ただリズムに合わせて打っただけ」と話す。パーパットが大歓声と共にカップに吸い込まれると同時に、右拳を高々と突き上げた。
“苦労人”沖野克文が38歳にして掴んだチャレンジトーナメント初優勝の瞬間、長かったバーディー合戦のドラマに終止符が打たれた。
惜しくも敗者となった前粟藏だが、笑顔で沖野とがっちり握手した。18ホールのデットヒートを演じてきた両者だからこそ分かり合えるものがある。「おめでとうございます!」と、しっかり沖野の優勝を称えた。
「最後は17番のバーディーを奪って、やっとの思いで追いついたけど、そこで燃え尽きちゃいました。久しぶりに優勝争いが出来たので、残り2試合では必ず優勝します!」まだ諦める訳には行かないと力強く話した前粟藏だった。
沖野は「今日は栃木に住む姉と甥そして義理の母が応援に来てくれていたので勝ちたかった。そして今までずっと支えてきてくれた皆さんに感謝したい」と、嬉しい初優勝を親族の目の前で成し遂げることができた。
「まだチャレンジトーナメントも残り2戦残っているので、気を引き締めて頑張りたい」優勝賞金270万円を加算し、チャレンジトーナメント賞金ランキング4位に浮上した沖野は、レギュラーシード権獲得へ意欲を示した。