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破格の新・飛ばし屋誕生!
一昨年は、1位につけたファイナルQTランクの資格で2年連続の本格参戦では、すでにライバルの動向は把握してあった。
「普通にやれば、今年は獲れると思っていた」と、チャン・キムはこともなげに言った。
このキムと共に、誰もが驚異と羨望のまなざしを送る飛ばし屋の一人に、韓国系豪州人のウォン・ジョン・リーがいるが、日頃から何かと面倒みてくれる年長のリーについて、キムは韓国語で「アニキ」と呼び、敬意と親愛の情をこめながらも「ウォンジョン・ヒョン(アニキ)のことは、実はあまり意識していなかったんです」と、打ち明けた。
「なぜなら飛距離より、スコアメイクを大事にするアニキは、たとえ計測ホールであってもスプーンやアイアンで、確実に刻むことを知っていたからです」。
となると、照準は自ずと絞られた。今年、キムがタイトル奪取に燃えた相手。昨年は、3年ぶり4度目のドラコン王、額賀辰徳(ぬかがたつのり)ただ一人であった。
キムは言う。
「僕は、日本語がまだ喋れない。だから、ヌカガさんとそれについて、話し合ったりすることは出来なかったけど、コースですれ違う時に、目で話すというか・・・。そういう意味では通じ合える部分はあったと思うのです」。
2人にしか分からない“会話”。飛ばし屋日本一のプライドを賭けた男と男の勝負は今年、キムの圧勝に終わった。
2位に若手の池村寛世(いけむらともよ)を挟んで、3位の額賀とは、11.78ヤード差をつける311.29ヤードも飛ばして、参戦2年目にして、嬉しい初戴冠をもぎ取った。
身長188センチ、105キロの恵まれた体格は、ご両親の深い愛情の結晶だ。お父さんのカクジュンさんは、冗談交じりに「息子には、毎日1ガロン(約3.785リットル)の牛乳を飲ませたよ」とは、なるほど。韓国でも牛乳は、子どもの健やかな成長の象徴であるようだ。
「それに、小さいころからたくさん食べさせた」と仰るとおりに、みるみると大きく成長したキムは、ジュニア時代からさっそく頭角を現した。
「恵まれた環境で存分にゴルフをさせてやりたい」と家族でハワイに移住したのはキムが中学生のとき。
全土のジュニア大会で2位に入ると、さらにお父さんの思いは加速。
今度は米アリゾナへ渡ると2008年から州のアマチュア選手権で3連覇。
2010年にプロ転向を果たしてからは、アメリカ、カナダ、欧州、アジアと、各国主要ツアーの予選会を転々と渡り歩いて、ついに日本ツアーにたどり着いた。
昨年は“デビュー年”。「日本食はお肉も、おうどんも寿司も大好き」と、父親仕込み(?!)の旺盛な食欲に、歯止めがきかずに、少々重量オーバー。
慣れない環境にも戸惑い、初年度の初シード入りには失敗したが、反省を生かした今年は序盤のダイエットの甲斐もあり、3度のトップ10でコンスタントに稼いで、賞金ランク69位は第二枠ながら、2年越しの初シード入りを果たした。
実りの2016年に、ひとつ悔いが残るとすれば、自身の今季最終戦となったカシオワールドオープンだ。23位タイにつけた3日目は、「手応えがあった」と最終日こそ有終の美を誓ったものの、大雨で中止。
「もしプレーを続けていたら、もっと上で終われた」と、心残りは、来シーズンに持ち越しだ。
誰よりも飛ばす秘訣は、「気合いを入れすぎないこと。飛ばそうと力を入れてもダメで、もっとも速く振れて、かつ効率的に飛ばせるスウィートスポットはどこかをまず探すこと」。
2017年も、まだまだ飛ばすぞ!